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第57話

「…レイレス」  腰を押し進めながら、エィウルスは名を口にした。 「…ん…ん、く…っ」  返事をしようにも、唇は甘く震え、言葉が出なかった。  痺れたように僅かに動く首でエィウルスを見れば、白銀の瞳は静かに見下ろしていた。 「俺はお前を、亡霊だと思っていた」 「!」  レイレスは目を瞠り、エィウルスを見つめた。  エィウルスはレイレスの瞼に唇を落とし、唇を撫でる。 「…この瞳。この小さな唇も、お前はよく似ている。お前は俺を迎えに来たんじゃないのか」  レイレスは沈黙した。そして、その唇がその名を呼ぶのを待った。 「レグニス」  静かに、エィウルスはその名を口にした。  その目は、痛みを覚えた様に細められ、レイレスを見た。 「……そうだといったら、どうする」  レイレスは首筋に手を伸ばし、肌を、その刺青を緩やかに締めるように手を回した。 「エィウルス。俺の、…俺だけの、獣…」  レイレスが肘を突いて身を起こすと、エィウルスはその腰を抱いて起き上がる。  口付けをすると、エィウルスは抱きかかえていた腰を下へと下ろした。 「…っ…」  レイレスは呻くように、自重によって深く結合していく身体を感じた。 「…あ…っ…」  仰け反り、背筋から全身に拡がっていく快感を追うと、エィウルスが喉元、顎先に続けて口付けた。  乱れた吐息を鎮ませると、レイレスは耳元に唇を寄せる。 「お前のような獣を、逃してはおけない。抱かれるフリをして、俺は最後に、お前を殺すかもしれない」  エィウルスは、腰を掴み、言葉を紡ぎ続けるレイレスを突き上げる。  唇を舐めるように合わせると、レイレスは熱く濡れた息を吐いた。    「…お前が、望むように」    それはどちらが言った言葉だったか。

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