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第59話
腕の中で微睡んでいると、夜の闇が薄らいでいくのが見えた。
見上げた夜空は藤色に染まり、白け始めていた。
夜が、明けていく。
逞しい腕は、僅かに動く気配を察したのか、再び締め付けるようにレイレスを捕らえた。
見動くことも出きぬ腕の中で、レイレスは温かな肌を感じていた。
「エィウルス」
目を瞑り名を呼ぶ。
「俺の名は、レイズクライムレスという」
腕が、緩まれ、レイレスは下草に肘をつき起き上がる。
傍に落ちていた羽織りを、肩へと上げると、背後で起き上がる気配がした。
「この姿で、俺の時間は止まった。子供のようななりだが、この大陸を支配している。お前たちが吸血と呼ぶ、王族の、…王だ」
朝日が、エィウルスとの合間に差し込む。
眩い光に、己の瞳が何色を示しているのかよりも、レイレスは続けた。
「お前は、いずれ、俺の国を滅びへと導く。だが、俺は、そんなことを許さない」
白銀の双眸は、瞠ることもなく、レイレスを見ていた。
「…ここから先は、俺は王として国へと還る。お前は、獣として俺を探せばいい」
レイレスは、羽織りの胸を開く。
鮮やかな刺青を辿ると、宙を漂うようにして、その首筋へと。
「最後に残った俺を、玉座から引き摺り下ろすのは、お前だ、エィウルス」
その首を引き寄せ、口付ける。
「お前が、たとえ亡霊を追うだけの獣だとしても」
エィウルスの腕が、レイレスの腰を引き寄せる。
首筋に宛てがわれていた唇を、重ねる。
熱い吐息を奪い合うように口吻た。
離れる事を許さないかのように、唇を奪い合う。
言葉を発すれば、それが合図のようだった。
「…ふっ…」
先に発したのは、レイレスだった。
「…俺を…、………」
レイレスは、囁いていた。
だが、その言葉の意を、エィウルスは解せなかった。
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