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プロローグ

 格差社会っていうけど、それは、結構、日常生活にも浸透してる。  学校や、クラスで。  みんなに好かれてて、華やかな毎日送ってる人と、そうでない人。  勝ち組と負け組っていう概念があるとしたら、まさしく、それなんじゃないかなって思う。  勝ち組って思われてる人の中には、みんなの知らないところで、いろんな努力しているのかもしれない。けど、そういう人知れずの努力って、周囲が分からないから実を結ぶのであって。  僕は、勿論、負け組のほうだ。  成績不良。運動音痴。容姿は下。男としては身長も低い。お金もなければ、友達もなし。  自分のことを一言で表現するなら、「冴えない」っていうのが一番ぴったりくる。  クラスでの僕の存在感は、床に落ちてる消しゴムのかけらと同じようなもの。  朝、登校して、夕方、下校するまでに、一言も誰とも喋らない日もある。  朝の出席確認で、声を発するだけの日もある。  それが悲しいとか、寂しいとか、悔しいとか。  毎日、教室の隅で一人で昼休みを過ごしていたら、そんなことを感じる器官が麻痺してしまった。  このまま自分は存在しないっていう設定が破綻しないなら、あと一年、このままで生活していけるとも思った。  でもキリキリキリキリ心臓が痛いのは、時々、本当時々、クラスメートの誰かと目が合ったと感じる瞬間があるから。  確かに僕は存在してて、教室で息もしてるのに。  目が合ったと気づいた次の瞬間には、何も見なかったみたいに視線をそらさられる。  別にそれに意味なんかないのは分かってる。悪意とか、無視とかそういう意味なんかないのは分かってる。  でも、そういうときに気づく。  ああ、僕は、ここにいないんだなって。  僕は教室の隅の、窓際の席から窓の外を見ていた。  雨が降りそうだった。  今日一日、ずっとこんな天気だ。  僕は何もすることがなくて、ずっと空を眺めた。  窓ガラスにぼんやりと映る自分の顔。……不細工だな、と思う。  中学校の頃から使っている眼鏡はフレームが傷だらけだし、しばらく散髪していない髪は伸び放題。傷んだ髪を、髪ゴムで後ろで一つにまとめている。学ランが黒のせいか、全体的に暗い印象がする。  いかにも、自分は空気ですっていう容姿だ。  確かに──  こんな冴えないやつと、仲良くしたいなんて、僕自身も思わない。  アハハハハ、とひときわ大きな笑い声を聞いて、僕は窓から目を離した。  教室の中央のほうで、男子女子のまざった何人かのグループが集まって盛り上がっていた。  笑い声は、そこから聞こえてきたみたいだ。  空気の僕には、そのグループが一体どんなメンバーで構成されてて、どんな力関係があるのか分からない。  でも、  ああ、  僕は机に頬杖ついて、クラスメートを眺めた。  青くてきらきらしてる。今日も。

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