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第1話

雨か… やっと咲き誇った桜の花たちもきっとこれで散ってしまうのだろう 君は其れもいいと言っていたね。 「僕は雨の日が好きだよ。だってこうして外に出ないで君とこうしていられるでしょう?雨に濡れ散り行く桜もこうして見ていれば美しいものだよ」 そう言うと君はそっと肩を抱き口付けてくれましたね そうして過ごせる雨の日は私も好きだったはずでした あの日までは 「君を助けられてよかったよ」 か細く呟きながら最期の口付けをしてくれた貴方の顔は微笑んでいて… あれからどのくらいたったのでしょう。今年もまた一人でこの大きな屋敷でぼんやり外を眺めています 「旦那さま」 「どうしたの?桜雨」 「お茶をお持ちしました」 「ありがとう。君の淹れるお茶はとても好きだよ。一緒にどうだい?」 「いえ。私は…」 「ほら。座って」 「では…少しだけ」 「いつも付き合ってくれてありがとう。君はもうここへ仕えてどのくらいたっただろうか?」 「はい。10年になります」 「あの頃はまだ幼い子供だったのにね。時は過ぎるのは早いねぇ」 「…旦那さま」 「なんだい?」 「無理して笑わないでください。今日はあの方の命日でしょ…」 「ふふふ…君は優しいね。あの頃幼かった君も数少ない理解者の一人だったね」 「あの方と旦那さまは仲睦まじく私の憧れでしたから」 「そうか」 「ねぇ。旦那さま。そろそろ先へ向かいませんか?」 「…君に言われたくないよ」 「旦那さま。もういいんです。あの方はこんな貴方を今頃苦しく見詰めていらっしゃいますよ」 「君に何がわかる?私の唯一だった彼が目の前で逝ってしまったというのに!!」 「わかります!!わかるに決まっています!だって僕は君にそんな顔をさせたくて助けたのではないのだから!!」 「何ふざけたことを!」 「君は覚えているかい?初めて会った日のこと」 「え?」 「あれは幼稚舎の頃だった。君はいつも一人で本を読んでいて他よりも美しくそこに咲いていた」

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