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prologue11

でも、そんなことよりも。 編入早々、俺をただの義堂(ぎどう)(はるか)として接してくれる友人が、3人もできた。そっちのほうが最高のプレゼントだと、悠は思った。 「そういえば、ハルは何の部活に入るか決めた?」 今日は掲示板の前で立ち止まる生徒の数が多いからだろう。教室の人影はまばらだった。 なんとなく4人で匠の席を囲むことになり、何気なく凌が振った話題に、悠が首を傾げる。 「うちの学校、全員何らかの部活に所属することが校則で決まってる」 生徒会以外はな、と、黒羽に視線をやりながら凌が続ける。誰からも説明を受けていないが、わりと重要な話ではないのだろうか、これは……。悠の脳内にわずかな 疑問がかすめる。 「ま、うちの副会長様はテニス部の部長も務めていらっしゃるけどね」 お前もやるか?と視線で尋ねてくる黒羽に、悠は苦笑いして首を横に振る。 「運動系は……ちょっとね」 運動苦手なのか?運動音痴なの、意外だね。得意そうなのに。 ――会話が少しずつ、遠のいていく。 小さい頃から体を動かすことが好きだった。同じスポーツとは限らなかったけれど、いつも何かをやっていた気がする。 中学の3年間は、バレーボールに費やした。いや、2年間というべきだったか。 中学2年の冬。練習試合でのことだった。 跳躍の高さは十分、タイミングもこれ以上ないというくらい、絶妙なトス。力いっぱい振り下ろした腕。手のひらはしっかりとボールの真芯を捉えていた。ものすごい威力のアタックだった。 相手チームのレシーバーはなぜか、悠のアタックを腕で受け止めようとしなかった。逃げようとしたのだ。結果、悠の放ったアタックは相手レシーバーの側頭部を直撃し、彼女はそのまま気を失った。救急車で病院へ運ばれ、全治一か月の重傷を負うことになった。 不慮の事故と言えばそれまでだったし、悠に過失があったわけではもちろんない。しかし、中学に入った頃からなんとなく感じ始めていた体の違和感に、悠自身は向き合わざるを得なくなってしまった。 「……ル。おい、ハル?どうした?」 悠の眼前で手を振りかざす凌。 「何ぼーっとしてんだよ、大丈夫か」 「大丈夫大丈夫。ちょっと、トリップしてただけ」 ぽん 一瞬、頭に感じた、羽のような軽さ。見上げると、いつの間にか立ち上がっていた黒羽が、まるで慰めるように頭を撫でてくれていた。 「1週間以内には、どこかに入部届出さないとな。今日の放課後、一緒に回ってやるよ。運動部以外もいろいろあるから、あんま心配すんな」 そう言って、黒羽は自分の席へと立ち去ってしまった。そろそろ、ホームルームが始まる時間らしい。 その日の放課後、黒羽は生徒会の仕事もテニス部も後回しにして、本当に悠の部活動見学に付き合ってくれるらしい。逆に言えば、何らかの部活動に所属しなければならないというのは、それほど重要な校則ということなのか。 いずれにしても、本気でやりたいことを見つけるためにこの学校に編入したのだから、悠には好都合。黒羽の好意を無駄にしないためにも、しっかり見て回ろうと心に決める。 「なんか気になるやつとかあったのか」 昼休み、放課後の部活動見学のために、入部可能な部活動と活動概要が一覧になったものをわざわざ黒羽が印刷して持ってきてくれていた。 「んー。オタク生態研究部かな」 「…………本気のやつは?」 「匠のいる工芸部、気になってる。あとは、映像研究部と、写真部も」 入りたいかと言われれば微妙なところだが、オタク生態研究部が気になったのももちろん嘘ではない。オタ活が部活なら、まだわかる。でも、オタ活する側を研究するって、どんな部活なんだろう。……謎すぎる。しかも、10人と思ったより部員数が多いことも、悠の興味に拍車をかけた。 現在、竜泉(りゅうせん)には、活動が認められている部活動が全部で50もある。顧問1人に5人の部員さえ集められれば、たいていの活動は部活として認められるらしく、生徒の自主性が重んじられていることが伺える。 じゃあ文化部から回ろうと黒羽が言い、2人が教室を出ようとした、その時だった。 ダアン! 教室中に響き渡る、衝突音。放課後で教室内の人影はまばらだったが、残っていた生徒の注目は、一点に集中していた。 悠の眼前に突然、足が振り下ろされたのだ。振り下ろされた足はそのまま隣の机に乗せられ、先を急ぐ悠の行く手を遮る形となる。 「やめろ、冴島(さえじま)」 冴島、と呼ばれた男は、黒羽の圧も意に介さず、無言で悠を睨み続ける。冴島と談笑していた2、3人の取り巻きが、その様子を眺めながらニヤニヤ笑っていた。 女同士もアレでアレだが男同士もなかなか陰険だ、と心の中でひとりごちる。 「あのさ、いくら上履きだからって、他人の机に足上げるってどうなの?それでトイレとかいくわけじゃん」 そこじゃねーだろ、と思わずといった感じでツッコむ黒羽。 なおも無言で睨みつけてくる冴島に自ら足を退ける気はないのだと悟り、悠は深くため息を吐いた。そのままくるりと踵を返し、後の扉から教室を出る。追いかけるようにして前の扉から出てきた黒羽は、しばらく笑いが止まらないようだった。 「お前、最高」

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