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「仰有っていただけたら、ご用意をいたしましたのに」 「いいよ。俺が出来ることはするから」 「………」 横たわる香久良を夜刀比古が気遣っている。 とても優しい眼差しで。 「喉を潤しませんか? 白湯でもお持ちいたしますが」 「いや、いい」 乱れた前髪を指で梳いてやりながら、なんとも甘い表情になる。 「なんだ?」 「いえ…その…、許婚どのには見せた事のないような感じがいたしましたので」 「あいつは煩いし、きつくて好かない。 香久良は…気遣っても煩わしいやり方はしないからな…。 なにより、財産目当てじゃないのは香久良だけ…」 年齢よりも心が幼いのに、一人の人間として夜刀比古を見てくれていた。 いや、これからも傍に置いておかねばならない。 「ここ数日が山場になる。 それが終われば、………全部がうまくいくんだ…」 「………」 自分に言い聞かせるような呟き。 確かに頼りないところはあるが、総領息子として努力を重ねて来たのを見てきた。 平時であれば、充分に長として務めていけたであろう。 だが。 里に住む人々の心はとうに荒み始め、疑念と恐怖に満ち、行方不明のままの護矢比古を次期長として望む声は大きくなってしまっていた…。 …夜明け前。 いまだ薄暗い時刻、社へ密かに運び込まれた荷物がひとつ。 それは、護矢比古と香久良を永い間引き裂いてしまうのだと、誰が気づいていただろうか…。

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