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泣き崩れる護矢比古の母を宥めて香久良の部屋に戻る道すがら、社の長は夜空を見上げた。
「なんて冷たい掟ばかりなのですか」
そう、泣いていたのを思い出す。
今の里長も前の里長も、掟を変えようと頑張っていた時期があった。
閉鎖的な里を開放し、厳しい掟を緩めてみてはどうかと。
だが。
それは悉く妻の実家の者達によって阻まれて来たのだ。
『他の里との交易が盛んになれば、富が入ってくる。
しかし、門戸を開きすぎれば、良くないものや害になるものも入りやすくなる』…と。
比較的豊かなこの里で権勢を振るえているのは、必要以上に里が閉鎖的だからだ。
下々の家が余計な知識を得れば、自分たちの得るものが減る。
出来るだけ阻むべきだと。
先にたつ者が言うことに、里の者は従うだけ。
疑問を迂闊に口にして、数日後には謎の死を遂げた者もいる。
逆らえば、ろくなことにならないからだ。
コト…。
小さな器を床に置く音。
「……誰ですか……?」
「俺だけど、何か?」
「あ、次期さま…」
室内にいたのは、夜刀比古であった。
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