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夜が明けた。 不穏な黒い気配が漂う里。 朝露の気配を感じて、護矢比古は目覚めた。 「………う…」 頭が重い。 ガンガンと響き、割れそうに痛い。 四肢が痺れて床に沈み込みそうで。 夜刀比古の闇の深さは如何程にあるのだろう。 体の自由を奪い、意識を混濁させるなど…。 じわじわと手足の先から痺れが上がってくる。 意思の力でねじ伏せようとしても、それは日々濃くなり、範囲をジリジリと広げているのだ。 『心の臓に食い込むのが先か、意識を塗り込めるのが先か…。 いずれにしても、先は長くないだろうな…』 冷たい床に這いつくばる自分を、香久良は一生懸命救おうとしてくれた。 いつか里の外へ連れ出し、自由を教えてやりたかった。 『呪いに取り込まれて夜刀比古の道具に成り下がっても、香久良だけは…香久良だけには危害を加えたくない』 それは、死してもなお…だ。 魂魄に成り果てても、それだけは絶対に。 『香久良…。 意識が塗りつぶされる前に…』 もう一度だけでいい。 会いたいと思う。 ゆっくりと痺れが上がってくる。 ギリギリと意識を侵食しながら。 『ここ…までか……』 完全に取り込まれる前に、自分の周りをもう一度見ておこう。 そう思って視線を移す。 『……………っ!?か、香久良!?』 隣の牢に、くったりとなった香久良がいた。

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