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贄姫と忌み子

『古(いにしえ)の約定により、年頃を迎えし春日の子を一人貰い受けたい。一年後、迎えに参り候(そうろう)』という書状が届いてから早一年が経とうとしているが、夫婦は未だどうすべきか決めあぐねていた。 いや、送らねばならないのは姉の咲耶に決まっていても、みすみす鬼への贄として捧げねばならないのは忍びない……。 いっそ両手で目を塞いでしまいたいほどの醜女であったなら、少しは諦めもついたであろう。 しかし、両親や周囲に愛されて育った咲耶は、快活で人当たりの良い、可愛らしい少女に成長していた。 山奥の禁域とされる宮で、宮司は言い伝えが書き記された巻物を確かめる。 「前回の贄乞いの折はどちらも女子でありましたが、やはり春日直系の贄子が鬼へ捧げられております。 対の忌み子は、今で言うところの結核を患っていたために程無くして世を去っていると書かれておりますね」 「…………」 「どうしても従わねばなりませんか? 今の世の中になって、今更贄乞いだなんて時代遅れも甚だしいでしょう?」 「…………おっしゃりたい気持ちも分かります。 しかし、贄乞いされる理由もあるのです」 詰め寄る両親に、宮司は巻物の一部を示しながら口を開いた。

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