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『今になって入れ替えろとは、無茶をいいますねぇ……』 ため息混じりの声は、やはり宮司のものだ。 「大変なのです。 私たちの世界では贄乞いですが、こちらでは妻乞いの意味だったのです。 どうしましょう、宮司さまっ。 わたくしは……、わたくしは……あの方の婚儀を台無しにしてしまったのです……っ」 何故か声が詰まる。 『ふむ……。 そちらでは妻乞いだったとは……。 困りましたねぇ……。』 「そうなのです! 勘違いとは言え、わたくしはもりやさまのご婚儀を……っ、どうしたらよいのでしょう……っ。 優しい方なのですっ、とても優しい方なのに、わたくしは……っ、わたくしは……っ」 喉が鳴る。 息が苦しい。 『そんなふうに泣いても仕方ないでしょう、咲良さん。 妻乞いであれば機会は一度きり、次は無いのですよ』 「そ、そこをどうにかできませぬか? お願いにございます……っ」 嫌だ。 あの人の婚儀を台無しにしたまま、何も出来ないなんて。

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