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◆◇◆◇◆ 「……………………?」 重なる紗(うすぎぬ)のヴェールが、さやと風に揺れた。 ………………真っ白の。 今いる世界を埋め尽くしているのは、木の枝から垂れ下がる真っ白なヴェールだけだ。 「ここは……、どこなのでしょう……」 見回しても誰もいない。 味気ない白と薄墨の色彩。 強いて言えば、咲良が育った宮の奥の庭に似ている。 「宮司さま?」 もしかしたら、今なら聞けるかも知れない……。 そう思って呼んでみる。 まだ時間は経っていないから、咲良と咲耶を入れ換える策を教えて貰えるかもしれないと。 「宮司さま、お願いにございます」 あの人の婚儀を台無しにしてしまったから。 『…………咲良さん?』 「宮司さまっ!?」 何処かから聞こえた声は、間違いなく宮司だ。 「宮司さまっ、お願いにございますっ。 わたくしと咲耶を入れ替えていただけませぬか?」 『………………は?』 「大変なのです……っ」 宮司を探して周囲を見渡しても、一向に見つからない。 ヴェールを掻き分けて探してみるが、何処にもいない。 「宮司さまっ、お願いにございます……っ」 必死で白い紗の中をこけつまろびつしながら走り回っても、宮司の姿は見えなかった。

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