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ぴり。 『んう……っ』 軽く唇が触れただけなのに、体を電流が駆け抜けた。 嫌なものではなく、寧ろ嬉しくてならない感覚。 こぼした吐息に反応するように、咲良の背に回された腕に力が籠められる。 ぴりりっ。 『んあ……っ』 チュ。 『ひあんっ!』 再び、愛しむように抱きしめられ、頭の天辺には口づけが落とされる。 付喪神や式神と戯れた時にすら、こんなふうにされたことなどなかった。 先の短い自分には許されていないとさえ思っていたことを、この人はしてくれる。 『咲良』 『ん…………』 導かれるままに逸る鼓動の真上に口づけを落とす。 それだけで、心が温かいなにかで満たされていく。 『離さないで下さりませ……』 ほろと涙を零した咲良を、その人はギュウギュウと抱きしめる。 誰かはもう、とうに気づいていた。 『もりやさま……』 夢現の中でのことなのに、それは二人に充分過ぎるほどの充足感を与えてくれた。

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