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二人の会話の内容を知らない咲良は、ばあ様から借りた筆や硯を文机に広げ始めた。 丹念に墨をすり、筆先に墨を含ませる。 文鎮で押さえた紙は、半紙ではなく巻き紙だ。 息を整えると、迷いなく筆先を走らせた。 「………………」 余計な力みもなく書かれていくのは、祝詞だ。 祭りで使うための祝詞を、一言一句間違うことなく認(したた)めていく。 子供の書道とは違う、流麗な文字。 御朱印帳に記入するのが苦手な守弥と時雨にとって、咲良は救いの神のようであった。 硬筆ならなんとかなるが、殊に毛筆となれば悪筆極まりないのだ。 「揃いも揃って最悪な悪筆とはねぇ……」 「硬筆でもいいじゃない? 社務所に置いてるプリンターとプロッターもあるし充分でしょ?」 「祝詞や御札を硬筆で書く神社が何処にあるんだい……」 「新しいスタイルの提案も必要だよ、ばあ様」 あきれ返るばあ様に、時雨がウインクをした。

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