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火傷がしみた訳ではない。 他に具合が悪い訳でもない。 何かが足りなくて、守弥も眠れなかった。 服地を通して当たる吐息。 腕に伝わる鼓動。 薄い背中と華奢な体のライン。 揺れる銀の髪。 体の左側にある存在の重さ。 『ああ……。 咲良が足りてなかったんだな……』 腑に落ちた。 そんな状態のところに、廊下で馴染んだ気配を感じて。 ドアを開けたら、引き返そうとしている咲良がいた。 「咲良」 「守弥さま……?」 「ん?」 「起こしてしまいましたか……?」 「いや。 何となく眠れなくてな。お前は?」 「わたくしも……。 直ぐに目が覚めて、そのまま……。 …………守弥さまの気配がなくて、……どうにもこう……、心がポッカリ穴が開いたようで……」 「…………っ」 「やはり、お邪魔でございますよね……、戻りまする……、ひゃっ!」 戻ろうとする咲良の手を掴み、いつものように肩に担ぐ。 「戻らなくていい。 いつも通り、一緒に寝るか」 「…………っ」 何だか、気恥ずかしい。 顔だけじゃなく、全身が熱くなってる気がして。 でも、守弥の顔を見ることもできなくて。 ぽすん、と、ベッドの上に降ろされてからも、鼓動は激しくなるばかりだ。 昨夜までは、普通だったのに。 今日は何故だか胸が逸る。 「……ん?何処か痛むか?」 「い、いえ……」 「額は大丈夫なのか?」 「大丈夫でございます」 「本当か?」 前髪を掻き分けて額に触れる。 その右手を取り、咲良が覗き込む。 「守弥さまも……」 「ん?」 「ビリビリとしみたり、ひきつれてはおりませぬか……」 「少し響くが、大丈夫だ」 「…………」 火傷をする現場に居合わせたのもあるのだろう。 不安げな顔の咲良を見て、守弥はゆっくり息をついた。

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