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「時雨、咲良の分を持ってくれ」 「え、あっ、う、うんっ」 「ひあ、あ」 手に持っていた皿を時雨に渡し、だばだば涙をこぼしている咲良を抱き上げる。 お姫様抱っこではなく子供を抱き上げる体勢で、守弥にしがみつく形だ。 「お、降ろしてくださいませ、恥ずかしゅうございます……」 「ダメだ」 「お願いにございます」 「そんなに泣いているのにか?」 「えうう……」 小さな子供をあやすように背中を擦る守弥。 嗅ぎ慣れた香りが鼻腔を擽り、少しずつ心が凪いでくる。 「どうした? また時雨が如何わしい触り方でもしたか?」 「いえ……」 「無理難題でも吹っ掛けられたか?」 「……いえ…………、う……」 「そうか……。 言いにくいなら、後でゆっくり聞くから、な……」 「………はい……」 甘えてはいけない、迷惑をかけてはいけないと思えば思うほど、涙は止まらない。 「無理に泣き止まなくていいから、本殿に入るときだけ我慢だ」 「えうぅ……」 「茶会の前にその目が零れ落ちたら大変だからな? 出来るな?」 「………………は……い……っ」 ギュウッとしがみつく咲良の背中をポンポンと叩き、守弥はそうっと息をつく。 先ずは夜の茶会の菓子をとどける。 泣いた訳を咲良に聞くのは、もう少し落ち着いてからだ、と。

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