341 / 668

「………………っ」 息は、まだ詰められたまま。 硬直した背中を優しく揺すり、呼気が戻るように守弥は促す。 「………………ん…………。 はふ………ぅ…っ」 戻って来た呼吸に咲良がフルリと震え、それすらも守弥の中の何かを煽りたてる。 伏せられた瞼を縁取る長い睫毛の微かな振れにすらも、呼吸が乱れ鼓動が逸っていく。 今なら咲良も脱力しているし、勢いに任せて一線を越えることもできる。 だが、それでは駄目だ。 対の約定を交わす前に行為に及べば、咲良の心に深い傷をつけてしまうかもしれない。 しっかりと納得をしてもらった上でなければ……。 「咲良」 「んん……」 未だ残る余韻に意識がたゆたっているのだろう。 浮上してくるのを辛抱強く待ちながら、守弥はそっと息をつく。 此方の世界に来てから、咲良はずっと守弥と寝起きを共にしていた。 少しずつ遅れていた成長をし、漸く心に体の成長が追い付いた。 初めて抱いた熱……。 『色事について何一つ知らない……。 恋の駆け引きや熱の鎮め方も知らずにきた……』 そう思った瞬間、守弥はハッとする。 幼いままで生きてきて、性教育を受けずに咲良は漸く年頃の……第二次性徴を迎えた。 ならば。 ………………守弥が教えることが、咲良にとっては常識となる。 唐突に、そう、気づいた……。 「……………………っ」 唐突に気づいたことで、呼吸が乱れて目の奥が熱くなる。 核の無い筈の魄魂がビリビリと震えるのを感じて、咲良の蜜を受けた掌に視線を移す。 「………………」 普通であれば、それはただの熱の残滓に過ぎない。 青い匂いのする液体は、拭き取るか潤滑剤代わりにするだけのもの。 だが。咲良のものなら別なのだ。

ともだちにシェアしよう!