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「………………っ」
息は、まだ詰められたまま。
硬直した背中を優しく揺すり、呼気が戻るように守弥は促す。
「………………ん…………。
はふ………ぅ…っ」
戻って来た呼吸に咲良がフルリと震え、それすらも守弥の中の何かを煽りたてる。
伏せられた瞼を縁取る長い睫毛の微かな振れにすらも、呼吸が乱れ鼓動が逸っていく。
今なら咲良も脱力しているし、勢いに任せて一線を越えることもできる。
だが、それでは駄目だ。
対の約定を交わす前に行為に及べば、咲良の心に深い傷をつけてしまうかもしれない。
しっかりと納得をしてもらった上でなければ……。
「咲良」
「んん……」
未だ残る余韻に意識がたゆたっているのだろう。
浮上してくるのを辛抱強く待ちながら、守弥はそっと息をつく。
此方の世界に来てから、咲良はずっと守弥と寝起きを共にしていた。
少しずつ遅れていた成長をし、漸く心に体の成長が追い付いた。
初めて抱いた熱……。
『色事について何一つ知らない……。
恋の駆け引きや熱の鎮め方も知らずにきた……』
そう思った瞬間、守弥はハッとする。
幼いままで生きてきて、性教育を受けずに咲良は漸く年頃の……第二次性徴を迎えた。
ならば。
………………守弥が教えることが、咲良にとっては常識となる。
唐突に、そう、気づいた……。
「……………………っ」
唐突に気づいたことで、呼吸が乱れて目の奥が熱くなる。
核の無い筈の魄魂がビリビリと震えるのを感じて、咲良の蜜を受けた掌に視線を移す。
「………………」
普通であれば、それはただの熱の残滓に過ぎない。
青い匂いのする液体は、拭き取るか潤滑剤代わりにするだけのもの。
だが。咲良のものなら別なのだ。
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