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よくある話(断固拒否)
そんなわけで……やってしまった。
「37度8分……」
電子音が知らせてくれた俺の今の体温。まさかの熱で参った。
テスト目前だっていうのに熱出したとかどんな罰だ。
学年の中間辺りの順位をうろちょろしてるからといって、俺からすればこれが精一杯の頭。ここを受けた時も偏差値は当時の俺よりも少し高めで。
少しだからといっても俺からしたら壁が分厚すぎて諦めようとも思ってたが、息苦しい遠過ぎる親戚の家にはこれ以上いたくない気持ちが勝って、勉強。
そう語ったのは、覚えてるだろうか。
だいたい俺の家の事情を知ってるのは平三ぐらいであって、教科書代わりに漫画を読んでても常に上位である木下を見るのがこの時期、一番ツラい。
みんなが勉強してるなか一人遊んでるんだからな。羨ましい。
そんな思いもあったせいか、ちょいとばかし調子に乗っていたであろう俺に罰が……。
――とりあえず、平三か木下……名前の順的に連絡先は木下の方がはやくに見付かるな。メールしとこう。
体勢を変えるだけでもダルいと感じる。これってさらに熱が上がって悪化するパターンじゃないか?
本当に最悪だ……あとで寮長に薬貰っとくか。
送信をタップしたあと、苦しいうつ伏せから仰向けに変えて溜め息を吐く。熱が出たという意識が脳に伝わったのか体温を測った時よりダルさが増したような気がした。
あぁ、つーか朝飯……王司には学食で食わすか。さすがに作れないし、風邪を移したら悪い。そう思うとまたスマホを起動して連絡しなきゃいけないなぁ……面倒だ……。だけど部屋の鍵はかかっている。
今は俺以外、誰も開ける事が出来ないから王司にノックされたらそれこそ大声を出して伝えなきゃいけない。……それも、ツラい。
あぁ、来週のテストはいっきに落ちるかもなぁ……。うだうだしててもなにも解決しない。
枕元に置いておいたスマホが一瞬のバイブで着信を告げる音にもうまく反応出来なくて、いろいろ諦めて寝ようと暗闇に落ちるその時、
「智志くーん?まだ寝てるのー?珍しいね」
来てしまった……。面倒だからって放置しなきゃよかった。木下に送ったあと、いつの間にか連絡先に入ってた王司にもメールしとけばよかった。
はやくも来る後悔。しかし、しょうがない。自分の体にムチを打って起きようか。そんでもってその足で寮長に会いに行って薬貰って、様子を見よう。そうすればいっきに俺のやる事が減る。むしろそれで終わる……今だけ我慢しよう。
王司と接触するがあいつの免疫力はそんなに柔じゃないだろう。
そう思って俺は掛け布団を剥がしなら上半身を起こしてみる。が、クラッとくるこれは目眩というやつだろうか……。
「智志君?……起きてないのかな」
起きてる。ちょっと待ってろ。俺の状況がわからなくても少しは空気を読めよ。電話で起こすなりなんなりしてみろ。
そんなドア越しでずっとノックしてても声を出してても気付かない時は気付かないぞ?
いや、今は気付いてるけど!
開きもしないドアノブを数回ひねっている王司。
鍵を付けている事は教えてないが雰囲気的に知ってると思っていた。というか知っていながらも、鍵がかかってないかも、と思って開けようとしてるのか?
だとすれば今のお前の姿は滑稽だな。
俺ってば心の中では元気なのな……。
「今出るっつの……」
「……」
普段は気にもしない事だが――少し口悪過ぎたか?
かけてあった鍵を開けてドアノブをこっちから回せばすごい勢いでドアが開いた。もちろん外側から、王司がドアを開けたんだとわかることだ。
「おい、危ないだろ」
「……智志君、顔赤いよ」
あぁ、お前が首にハメてるそれも赤いぞ。
「風邪引いた?」
「そんな感じだ。熱もあるから今日は学校を休む。飯は学食……か、もしくは平三と会長様の部屋に行ってこい」
伝えながら薬を貰うために一応、上着を羽織っていると首を傾げながら眉間にシワを寄せる王司。
おいおい、綺麗な顔が台無しだぞ?――とか言いたいが、そんな顔でも殴りたくなるような綺麗さはまだ残っている。
「じゃあおとなしく寝てなきゃいけないだろ?」
そんなのわかってる。俺がお前になにを伝えたか覚えてるか?
覚えてるなら流れ的に、薬を受け取りに行くんだなって思うよな?
なのになぜ、そんな事を言われなきゃいけないんだ……。
心の中で話しかけてるのは喋るのがツラいからであって決して言い返せないわけじゃない。いつまでも動かない王司にイラついてきたせいで舌打ちをし、部屋を出ようとした。
もう8時15分になる。学食は諦めた方がいいし、平三の部屋も諦めた方がいいだろう。
会長様の生活リズムは知らないが、もしかしたら食べ終わってる可能性がある。というか、そっちのほうがあり得る。
今部屋に向かって、飯を食わせろなんて言ってみろ。迷惑の他になにがある?
今日の王司は朝食抜きだな。もしくは時間がないなか自分でやるしかないだろう。
「智志君、寝てなきゃ」
「わかってるっつの、うるせぇな。その前に行く場所があんだよ、腕離せ」
「どこに行くの?俺が行く」
てめぇは学校があるだろうが!
なんて、言い返したかったが変に怒鳴ると熱がさらに上がりそうな気がしたから、そこは我慢して素直に薬の話をした。
するとこのバカは『俺が行くからちゃんと寝てろ』なんて強気な口を開いてきたのだ。
やっぱり怒鳴ればよかった……。けど寮から学校は徒歩で5分ほどだが、もう出ないと間に合わない。
「ほら、智志君」
言い返したかったが王司が俺の背中を押してベッドまで歩かせたから出来なかった。むしろ俺はどこかで――じゃあお言葉に甘えて――なんて思っているのかもしれない。
生徒会副会長が遅刻寸前とは笑い者だな……いや、それでもカッコいい王子様とか思う方が多いのかもしれない。
余計なことを考えていたら俺を寝かせて掛け布団をかける王司の姿。そしてまだ眉間にシワを寄せたままの顔で『ちょっと待ってて』と一方的な言葉を吐いて出て行ってしまった。
「あいつマジかよ……」
王司のブレザーと鞄がベッドの脇に置いてあるのに目がつく。
学校に行かない気だな?
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