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よくある話(断固拒否)
また一つ大きな溜め息を吐けば、そういやスマホが鳴っていたような、なんて曖昧な記憶を思い出して手にすると、やはり新着メールが届いていた。
たぶん木下だろう相手に受信メールを見れば予想外にも平三からだった。内容は、どうやら木下から聞いたみたいで木下の代わりに平三が返信したみたいだ。
薬を届けようか?という内容に王司が取りに行ってることを返事したあと腕の力が尽きる。
節々痛ぇな……。出したくもない涙も溢れそうになる。久々に引いた風邪だが厄介なものじゃなければいいな。
そうこう考えてるとドアが開く音がして、王司だとわかってるからなにも反応せずに待っていた。
「智志君、貰ってきたよ。錠剤だけど飲める?」
「バカにすんなよ……」
「ごめん。あと、冷えピタと氷枕。枕変えるよ?」
そう言ってきたにもかかわらず俺の返事を聞こうともしないで頭を抱えられて丁寧にゆっくりと氷枕に変えた王司。
氷枕の中で踊る水と氷の音が妙に耳について気持ち悪い。だがしばらくは我慢しないと治るもんも治らないだろうし……あと冷えピタとか言ってたっけ?
あー、薬も飲まないといけないからもう一回体起こすか……?
せっかく横になれたのになぁ。
「さとしくん、薬飲ますよ?」
平熱が35度で低いせいか38度近くの熱を出すと40度なみの熱が出たような気持ちになる。40度の熱なんて出した事ないがツラいに変わりないだろう。
吐き気がないだけマシだ。
「口開けて、薬入れるから」
嘔吐もあったら絶対に風邪より重い病気だろうし、寮から隔離されて果てには病院行きだ。
「ちゃんと飲みこんでね?いい?」
だいたいインフルエンザとかなった事がない俺は本当のツラさを知らないだけで、これより酷いんだろうなって思いながらボーッとする頭をなんとか意識持たせていた。
「口、そのまま開けてて、ね?」
「……ん、ふッ」
「……あ、ちょっと溢れちゃったね」
突然、口の中に入ってきた液体。冷たくて味がなかった。
回らない頭をどうにかして回してみてもそれが水だというくらいしか認識出来なくて、それとやけに王司の顔が近いような気がする。
つーか俺、今どうやって水を飲んだ……?
「さとしくん、目を瞑って?寮長さんが言ってた。この薬、副作用で少し眠くなるんだって。ぐっすり寝て、いっぱい汗かいて、はやく良くなろう?ね、俺が看病してあげるよ」
塞がるまぶたに目元が冷たい。王司が俺の目の上に手でも置いたのだろう。
視覚がなくなれば聴覚の意識が高まると聞いた事あるが、ツラいだけでとにかく楽になりたかった俺は、薬の効き目にはまだはやすぎる睡魔が襲ってきた。
看病……ちょっとやそっとの接触ぐらいなら王司の中の免疫力も平気だろうと思っていたが、看病されると話が違ってくる。
学校に行ってればこんなにも近くにいなくて済むのに、休めばこの部屋にいることになるから風邪を移してしまうかもしれない。
――だけど今の俺に否定する力なんてなくて、王司の看病という言葉に少し甘えてみたかったのかもしれない。
「……ん、」
「ふはっ……智志くん、かーわい。だいじょうぶ、ちゃんと看病してあげるから、ねー」
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