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一夜漬けの末

  【146位-中沢 智志】  上がりもしなければ下がりもしない順位。王司と関わる前に行ったテストも確かこんな、パッとしないような位置だった。  風邪も治り、頭が空っぽのなか淡々と平三と木下に今の状況を伝えた後に訪れたテスト期間。やったぞ……やってやったんだぞ……一夜漬けでな!  風邪はしかたないとしても勉強をする時間は日々あった。……あの時、王司となにもなければ、ただの看病だけだったら、王司が静かにしていれば――俺はもう少し順位を上げれたかもしれない。  だがしかし、平三と木下に話していた時に思い出す数々の狙われに逃げるしかなくて、結果なにも出来ず焦ってテスト前日を迎えたわけだ。  一夜漬けなんて最終手段にもほどがある行動だったが、どうにかして変動なしの場に俺は立ててる。だから良しとする結果だ。  誰もいない男子トイレにて用を済ませて手を洗おうと蛇口をひねって水を出す。  そういや学年掲示板に貼られていた学年トップ50位達の名前があったな。その中に平三の名前はなかったものの、漫画しか読んでない木下の名前はちゃんとあったのを思い出しす。  陰で努力をしてるのか、それとも本当になにもせずでテストに挑んで8位という結果を出したのか……謎過ぎて殴りたくなるな。 「1位はもちろん会長様だったしなぁ……」  きゅっ、と水を止めて制服のポケットからハンドタオルを取り出しながらまた思い出すのは、二学年のトップ人物の名前。  さすがにもう生徒会長の名前は覚えたし、なにより頷ける順位だったと思う。  どこから目線だっつの……っていう自らのツッコミを強制終了させて、名前の横に全科目の合わせた点数を見れば862点という驚異文字。  なんだ、その8と6と2という三つの数字は……二度見してみたが俺の目は正常で、正しくて、なにも言えなかった。  まぁなにか言うつもりなど、更々ないが。 「会長様は人間じゃなくて化け物かもしれないな、ははっ」 「誰が化け物だと?」 「……っ」  誰も、いなかったはずの男子トイレからもう出ようと思いながら呟いた俺の独り言は、誰かに聞かれてしまったらしい。  その声はどこかで聞いた事があるせいか、肩をピクッと上がらせてしまった。 「か、会長、様……」 「ずっと思っていたがその“様”ってなんだ。俺の名前知ってんだろ?」  ずっと、ってなんだ。 「あ、ああ、もちろん……」  なんて、言えるはずもなく急な現れに俺はしどろもどろ。口もいつもみたいに喋れるはずもなく、いちいち噛んでしまう。  この光景、なんか前にもあったような……やっぱすげぇ人が目の前にいると違うな……。 「中沢 智志、だっけ。お前」  なぜ知ってる、なんて思いながら用を足す会長様の後ろ姿をガン見。  俺はここから出て行ってもいいだろうか……つーか出て行きてぇ……!  もしくは誰か! 平三!  お前がここに来い!  あぁ、もう、どうして俺はこんな時に限って利用されにくい男子トイレを選んだかな!  気まずい雰囲気が出来ちゃったらその状況を打破する方法が思いつかねぇよ!――とか、思ってたりして。  今の俺はハイスペック脳を持っている、つーか思いついただけなんだが……話しかければいいんだ、単純な話題を振れば沈黙はまず来ない。  トイレなんて変に響く場なんだから沈黙なんて作られたらたまったもんじゃないぞ。しかも会長様との間に生まれた沈黙とか拷問しか考えらんねぇよ。  平三ってすごい奴だったんだな!  

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