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冷静な気持ち
「……」
「……」
今まで、こんなにも重い沈黙を体験したことがあるだろうか。
俺は一回、王司は二回の果てに死にたくなるようなニオイが体に染み込んでるんじゃないかと錯覚。
もうお互いのモノは隠してあって、立ち尽くす俺にまだ少しだけ息が上がっている王司はガチャガチャとハメた手錠を鳴らしていた。
あぁ……俺マジでなにやっちゃってんだよ……。
今までの流れを振り返り、やってきたのは後悔――というより、焦りだった。なにに焦っているのかはわからないが、とにかくどうしようどうしようと思うばかり。
俺、中盤辺りとか普通に腰振ってたよな……?
王司の言う通りでやってみたにしろ、あれはまずかったか……。
とりあえず、後処理……だな。
「……片付け、しなくちゃな」
まだ手錠を鳴らす王司に一言声をかけてタオルを持って来ようとした。すると王司は爽やかな笑みを浮かべながら『待ってよ』と。
ここまで来て、もう何度も聞いてきた言葉。だけどその時とはなにかが違う、言い方。
「……なんだ?」
「これ、外して?俺も片付けする」
「あ、あぁっ……そうか、悪いな……」
なんだか素直の笑顔で王司を見れない。とはいえ、俺が無理矢理やったわけではないからこうも動揺するのはおかしい気がする。
でも全部が全部、初めての場に直面したせいか?
手錠の鍵を探すべく王司にはなにも聞かないまま、鍵がありそうな机の引き出しを覗いてみた。すると呆気なくそこにあって謎の罪悪感。
なぜわかったんだ、俺……なぜ最初からこんなところにあると予想してたんだ、俺。
鍵を持ち、王司の手首をハメてる手錠に挿し込むといい音を立てながら外れた。
「ありがとう」
笑顔だ。
確かに笑顔で、いつもの爽やかさも残しつつ有名人なこいつのファンが虜になりそうな表情をしながら手錠のせいで少し赤くなってる手首をさすっていた。
痛かった、んだろうか……。
そんなに時間も経ってないはずなのに、少しの戯れだろうと赤いものは赤い。俺が王司の頭を掴んだり、腰を振ったりして距離感を考えず乱暴にやってしまったせいで、赤い。
その手首を見ているのが俺にはツラすぎて目を逸らす。
「智志君、ごめんね……」
謝るなよ。どんな流れがあったとしても、きっと俺が謝るべきなんだ。
ほぼ初めて見る王司の健気さに『俺が悪いんだ、調子に乗った、悪い』と、謝罪をしようと逸らしていた目を元に戻す。――が、王司は王子様でも王司 雅也だ。
杞憂過ぎたのかもしれない。
「俺さぁ、すっげぇ気持ち良かったァ……この痕も興奮しちゃって、今晩ちゃんと寝れるかな?ほら、わかる?震えてんだ……智志くんが、さとしくんとこんなこと出来ちゃってさ……ずっと残らないかなぁ」
「……王司」
「あ、ごめんね?でも俺は智志君と、智志君だけとずっと、この先も一緒にいたいんだ。片付けだっけ?そんなのしなくてもいいよ、ね?智志くん今日は疲れちゃったでしょ。おれ我慢するからこのまま寝ないかい?」
そうして指差す先はベッドの上。
なにが、俺が謝らなくちゃいけないだ……俺が素直過ぎた。
「――誰がこんなところで寝るかドM!てめぇ本当に変態なんだな!今のですげぇわかった!もうそのまま精液くさい部屋で寝てろ!」
「よろこんでっ――「喜ぶなクソッタレ!」
真後ろにあったベッドに王司の体を押し倒して俺はもう一度ベッドの支柱に手錠と、赤くなっている手首にハメたあと、部屋から出て行く。
あいつは健気でもなんでもない。本気で落ち込んだ俺がバカだった。
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