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冷静な気持ち

   木下には悪いが、俺はサディストな部分があるわけでもないし、ぶっちゃけあいつに突っ込めそうにない。  萎える、とかではないんだ。普通に、あの勢いを考えると、王司が突っ込んできそうな、そんな勢いに見える。  確かにあの受け入れからするとバリタチ王子様なんてレッテルはすぐに剥がされそうだが、それはなにも知らない俺相手だからそうなったわけで……。  どう言えば伝わるか……。 「智志、今の気持ちはどんな気持ちだ?」  木下に押し付けられてる本を必死に押し返していたら、平三が聞いてきた。  どんな気持ち……変わらず、焦った気持ちはある。だけど一向にその意味がわからなくて無視してしまいたい気持ち、と言えばいいか? 「王司とそんなことしちゃってる自分が嫌か?」  その言葉に、俺ははやいくらいの反応をしてしまった。 「それはない」  自分でもびっくりした。  そのびっくりも、平三に答えた言葉を口にしてからびっくりしたわけだから、ほとんど無意識状態のまま『それはない』と言ってしまったのだ。 「……思っていたのは、王司とこうなるのを考えたって今さら過ぎるって。異性同性気にしてたら絶対に俺この学校にいれねぇし」 「……中沢って意外と男前だよな」  そうか?なんて木下に答えれば少し目を泳がせていたような気がした。  平三も俺の返事に対して最初は固まっていたものの、今では笑っている。  さっきまで欠伸をしていた奴が、笑っている。 「へーぞー、お前失礼過ぎだ……」 「え?いや、悪い。でもまぁ、焦らなくてもいいと思うぞ?」 「はぁ?」 「嫌だとも思ってないんだろ?ならすぐに気付くと思うけどなぁ。――あと、こういうのって慣れじゃないか?」  さらに平三は木下へ同意を求める感じで『なぁ、木下くん?』と言っていた。……まったく、意味がわからない。平三がなにを言いたいのか、全く……。  だがしかし、こういうのは慣れということはつまり……俺ってばホモになっちゃうのか?  流れからしてそうだよな……?  やべぇ、不安になり過ぎてやべぇ。今頃、手錠にハメられてて嬉しがってるであろう王司を思い出しながら肩を落とす俺。  部屋に戻れば、なにも出来ないはずの王司にまたなにかヤられそうと若干怯える。  まぁ本当に手錠でベッドに繋がれてるからなにも出来ないし、怯えたところで意味はないんだが……。  はっ……!  期末の結果で上位になったら寝る約束をしていたな……王司のことだから小テストの結果をあと何枚か出してきた後、ベッドに入り込んでくるかもしれない……。  今のうちに“期末の結果後”という訂正するか?  つーか、ここまできて俺は王司との事を考えてるって結構、鋼の精神持ちになったよなぁ……。 「こうして唯一のノーマル仲間が消えるのであった――」 「木下、やめとけって」  それでも今日は木下の部屋に泊まろうか。  校則違反であるが、だいたいみんな破っているものだし平三もいるから会長様の目も見逃してくれるかもしれない。  

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