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校内での接触
意外にもあった梅雨も明けたせいか、暑く感じる。
スマホで設定していたアラームが鳴る前に目を覚まし、少しの憂鬱な気分を無理矢理晴らしながら制服に腕を通して感じた事だ。
基本的にここの学校はどの時期に夏服仕様、どの時期に冬服仕様というのは決まっていなくて、生徒達が着たい方を着るような流れになっている。
だから真夏に冬服を着てこようが真冬に夏服を着てこようが体調管理さえしっかりしていれば教師からなにか言われる事はないのだ。
ただ、クラスの奴等から『暑いのに暑苦しい格好してくんなよ!』とか『見てるこっちが余計に寒い格好すんなよ!』なんて言われるが。
でもまぁ、今日は別に半袖でもいいか。
そう思い、一度着た冬服仕様のシャツを脱いで夏服である半袖のシャツを取り出しもう一度腕を通す。
「智志君、おはよー」
「おはよう、だらしねぇからはやく顔洗ってこい」
いまだに部屋着姿だった王司が眠そうな目を擦りながら部屋からリビングに出て来た。
溜め息交じりで指示すれば回らない頭でどうにか体を動かし、頷く王司の背中を見ながら朝飯の準備。
なんとなく出来てしまった役割分担だ。平三の時も俺が自然にご飯の用意をしていたせいでもあるが、話し合う事もなく取りかかってしまう。……いや、平三の場合は作って作ってとうるさかったから作っていたのもあるな。
作るのは苦じゃないから別にいいんだけど。
それこそ面倒な時は学食を使うし、なにも問題はない。
「じゃあ俺は先に行くけど食い終わった皿とかは浸けるだけでもいいからキッチンに持っていけよ?」
「うん、わかった。今日のご飯も美味しいよ」
「そうかい、よかったよかった」
自分の食器を洗い終わり、鞄を持って玄関に向かいながら言えばやっと覚めてきた顔で言う王司。
朝からパンを三枚も食って、おかわりの目玉焼きも欲しいとかほざいた事を言うから焼くのが面倒で俺の目玉焼きをやったら、これまた美味そうに食って……目玉焼きぐらい誰が作ったって同じだろうが……。
しかし何度見ても慣れないのが、王司は目玉焼きにケチャップをかけるという事だ。
塩コショウだろう。
教室につけばやっぱり半袖のシャツを着た平三と木下がいた。そりゃそうか。やっぱり暑いもんな?
周りもほとんどが半袖で俺の暑さも間違いじゃなかったみたいだ。
つーか、なんであの二人は俺の席に集まってるんだ?
「おはよう、二人とも」
そして俺の挨拶に『邪魔だ、そこは俺の席だ』という副音声もちゃんと聞こえただろうか。
「おはよう、智志」
「おー!中沢!お前ゲームやるんだってな?」
悲しくも副音声は伝わらないまま、こいつ等は動かず他の話題を話し始めた。まぁいい……下手にこいつ等を叩けば周りの視線が痛くなるからな。
「智志はやるといっても赤い帽子のおっさんシリーズだよなぁ」
「なんだ、そっち系か」
「なに系を期待してたんだ……ていうか一旦、退け。教科書入れさせろ」
ちなみに俺の席に座っているのは木下。
そして俺の前席に座っているのが平三だが、俺の机に腕を置いてるから邪魔に変わりはない。
ほらよ、と言って座っていた椅子を後ろに傾ける木下にどこかイラつきながらも少し乱暴に教科書を入れてたら、気付いてしまった。
俺は、気付いてしまったのだ。
「木下!?」
「――っ、なんだよ急に大声で……」
「や、だって……あれは?……読書?」
木下と言えば、もう漫画だった。そんな今日の木下は、漫画を読んでいなかったという気付き。
他からしたらアホらしい事かもしれないが俺からしたら珍し過ぎて大声を出してしまうレベルだ。
木下が大好きな男同士の漫画を手にしていない今、ただのイケメンだ……。
「いやぁ、だって今日は辞書を使う日だぜ?しかも二教科もある。つまりは二冊、あの分厚いものを持ってこなきゃいけないんだ。さすがの俺の腕という心が死ぬっつの」
「寮から学校なんて5分もしないだろー?」
「それがまた違うんだよ」
「……」
木下の発言に、平三の呆れた返し、そしてまた返す木下。――黙る、俺。
徐々に焦る俺は、見ての通り辞書を忘れてきたっていう……。思い出した、思い出したぞ……英和辞典と国語辞典な……。
確かに使うわ。しかも一時間目から使うな。どうしようか……。
浮いてる人物で、さらに顔の良い二人とつるんでいる俺はそうそうに他のクラスで貸してくれる人がいない。わかっていたけど、俺の自業自得だけど……実際こうなると焦るな。
これが平三、木下のどちらかが他のクラスだったら希望はあったはずだが……。
「もしかして智志、忘れた?」
俺の表情を見て察したのか、聞いてきたのは平三だ。
その言葉に頷くと木下が口出ししてきた。
「そういや7組も同じ辞書使うって聞いたな。時間もねぇし、借りてくれば?」
「7組……」
7組と言えば、王司のクラス。加えて言えば会長様のクラスでもある。だが木下の顔からしてこれは意図的に誘導した言葉だろう。
俺と王司は学校では話さないという約束を知っているから。……けど、そう迷ってもいられないのが時間だ。
寮まで走って行けば往復5分、かかるかかからないか……。ホームルームが始まるまであと5分……しょうがない、四階まで行って借りに行くか。
借りられる相手にしても王司か会長様のどっちかだけど。
顔面レベルが高過ぎて俺みたいな平々凡々野郎が話しかけたら注目の的だろうな……我慢するか。
いや、我慢の道しかないんだよな……。
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