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校内での接触
こうやってドア陰に隠れていたって見つかるものは見つかってしまう。
廊下を歩いていた7組の人であろう男が俺を不審な目で見ながら教室に入ってるし……ここの生徒のはずなのにどうしてこうもキツイ目付きで見てくるんだ。
あぁ、もう本当に帰ろう。
会長様はもう王司に話してるっぽいな……なにも言わずに去るのもどうかと思うから王司に連絡して、帰ろう。今ならまだ間に合う……辞書は持っていかなくてもいい。
気まずいまま隣の奴からそれとなく一緒に……使えっかなぁ、俺ちゃんと一緒に使えるか?
使えねぇなぁ!
「智志君っ!」
「ちょッ、バカ、でかい声で俺の名前を呼ぶな……!」
帰ると決断したその時から足を動かせばよかったんだ。
7組の出入り口ドア陰で頭を抱えながら迷っていたら、後ろから呼ばれてしまった。長袖のシャツにブレザーを羽織った、王司に。
表情は異常にニコニコしてて、だけど声は落ち着いたような言い方で、呼ばれてしまった。俺の下の名前を呼んできた王司に、教室のみんなから見えないような角度で足を踏む。
その時、表情が変わったような気がしたが、こいつにも理性はちゃんとあって、耐えていた。
「ご、ごめん……なんか、嬉しくて」
「……」
「辞書だよね、会長から聞いたよ。国語も貸してあげるからまたその時、俺が行──「いい、お前は来るな」
小さな声でのやり取り。
これまた気のせいだろうか……7組のクラスの騒ぎがさっきより静かになってる。そして、王司の顔も、少し赤くなってるような……?
くそ、ここまでの反応されると俺もどうすればいいかわからなくなってくるな。
「……今、持ってくるよ」
王司の声に先ほどみたいな元気がなくなったまま、また自分の席まで行って、集まっていたクラスメイトの奴等と口を開いている。
そういや、会長様や7組のほとんどの奴等が半袖を着るなか王司だけがブレザーまで羽織っていて、浮いているように見える。
汗ひとつかいてないが、暑くないんだろうか。まぁ基本的に自由だし、長袖のシャツを着る人達もいる。
おかしくはないのにブレザーまで着ているのが王司だけというところで、俺はおかしいと思っているのかもしれないな。
しっかり、手首まで、隠すかのように。
「はい、英和。……国語はどうする?その、中沢、くん……」
俺から言っといてなんだが、王司から名字で呼ばれるとか違和感しかない。
「……屋上に繋がる階段の踊り場、ならいいぞ。国語は四時間目に使うから」
「あそこか、わかった。俺も英和は五時間目なんだ。どうしようか、二時間目終わったらにする?」
二時間目と三時間目にある休み時間は通常の倍、つまり30分休憩が挟まれている。その時間帯を狙ったんだろう。
王司の提案に俺は素直に頷いて、王司が持っている辞書に手を伸ばす。すると分厚い辞書の下からスルリと王司の手が俺の手に触れてきた。
どの視覚からでもこの角度なら真下じゃない限りわからない。
俺の向かって右側はドアで完全に隠れてて他から見えてない状態だし、左側は辞書を少しだけ傾けているからその死角でなにがどうなってるかわからないだろう。
わかるのは当事者だけ、俺と王司だけしかわからない図。
「おい、王司……」
「ふっ……」
顔を俯きながら、久々にゾッとするような笑いをしてきた。
まるで同室者初日の時にしたあの笑いみたいな、少し控えめだがまたそこがゾゾッとする笑み。目だけを確認で廊下を見ればちらついていた生徒達がもういない。
今、時間はどうなってるんだ?
指と指の付け根の間を殴りたくなるような、ふざけた触りで、ソッと撫でてきたり……いい加減に離せよ。
「王司、お前これ以上はやめろよ……」
溜め息を吐いたあとの言葉。
俺から離せばいいはずなのに、なかなか離れられないのは王司の触り方が悪いんだと決めつけている。
触りだけでも、王司のスイッチを押してしまったような気がしてならない。
「ごめんね、智志くん……ほら、校内じゃこうやってみんなの前で話すなんてなかったから、うれしくて……。わかってるよ、智志くんがこうやってずっと俺と一緒にいるのが嫌なこと。わかってるけど、やっぱり俺は喋りたいからさぁ……でも我慢しなきゃだもんね?だからね、」
一息吐いて、王司は俺の耳元に近付いてきた時――。
『手錠の痕を見て、癒されてるの……偉い?』
その瞬間、やっと朝のホームルームが始まるチャイムが鳴った。
結局、俺は遅刻という形で遅れたのだ。
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