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理性

   お、っと……これは危険だぞ?  突如、現れた俺の理性が悩める。  平三から、とにかく痛いって、爽やかな笑顔で言ってたのを耳にしたことがあるからだ。  木下なんて、夏は人を変えると、それだけで満ちた表情だった気がする。  あいつホモじゃないのに……。  だが、それはほんの数日前と数時間前の話であって、今くるとは思わなかった。 「王司、お前さすがドMだな……ハイスピードを好みやがる……」 「ハイスピード?んー、確かにジェットコースターとか絶叫系は大好きだけど、関係あるかい?」 「さっ、さぁ……?」  その穴をふにふにと触ってくる王司の手をなんとなく退けながら、寝転んだものに近かった体勢を座り直す。そうすれば触る事が出来なくなるからな……さすがに、はやいと思うんだ、王司くん……。  ついでだからチンコも戻そう……そう、手にした瞬間、 「え、お、おわり……?」  悲しみと驚きを混ぜたような表情を浮かべる王司。声に焦りもあったような気がする。  おわり、というより俺的にはまだ“はやい”という感覚。  俺と王司の関係云々は後々だ。――そんなの俺だって気付いている。  言っとくが、友達より同室者の方が関係は浅いと思ってるから。 「王司、落ち着け。終わりとかじゃねぇよ。……いや今日は終わりに、「やだ!」 「……」  まるで捨てられた犬っころの目。閉ざされた俺の膝に手を置いてきた王司。  今ここで、こいつが首を傾げたら余計、犬に見えてしまう。 「またの機会があるって意味だぞ。嬉しいだろ?」 「それはとても魅力的だよ。……でも今だって、」  こいつの魅力的っていったい……。 「俺にとってもすっごい魅力的なんだ。この勢いに智志くんも、誘われてみようよ」  いや、だから、お前の魅力的がわからん。  そんなツッコミもドMのくせにこんな時ばかり積極的に迫ってくる王司には出来ず、よじ登るかのように今度は俺の膝の上に乗ってきた。  首に回された腕はまるで逃げるなとでも言うかのもの。身長は王司の方が大きいせいで、間近だと見上げるのに首が痛くなる。 「さとしくん……キスしてもいい?」 「……」 「残念だけど、もう智志くんの味はなくなったよ。ね、こっちの口にも――あっちのクチにも、口付けたいなァ」  ちゅ、と鼻先にキスをされる。  戻しそびれた俺のチンコは王司が跨るせいで服に擦れてて反応しそうだ……。 「くそ……まだ最後まで、するなよ?」  悔しいが、ギリギリ正常である理性を倒して呟く。  こういう時はベッドでするのがいいんだろうが、俺達はまだソファーにいる。  はぁぁぁぁ、と大きな溜め息に似た深呼吸に王司の左手が俺の右手を絡めて、まるで恋人繋ぎをしてきた。  俺のそばに王司には見えない平三がほしい。天の声みたいな感じで耳に聞こえてほしい。心の声を読み取ってくれるような妖精平三。  なぜ平三を選んだかって、あいつが経験者だからに決まってるだろ……。  木下を選んだところで面白半分な声しか聞こえないだろうし、ここはどう考えても平三だ。 「はぁ、こんなはずじゃなかったんだけどな……」  絡まれてない左手で目元を隠しながら、俺の下半身はもう丸見え状態だ。羞恥心があると思ったら案外そうでもなく普通に寝転がってる。  ついでに足まで広げてて、本当にこうなるとは思わず……夏休み初日に――というか終業式の日に――俺はなにをやっているんだか……。 「はぁッ……さとしくんの、あなだ……ふぅ」 「ぅッ、ゎ……」  くに、と広げられて息を吹きかけられる。  なんとも言えない……けどゾワッとした感覚にもう立場が逆転されたように思えた。  しょうがない……最強の唱えをしよう。  王司は、ウォシュレットだと。 「智志くん、舐めさせてね……?ん、」 「ひっ……ッ!」  広げられては指で軽く押されての繰り返しだったはずが、王司の一言により背筋が凍った。  いま、べろって。  チンコの時とはえらい違う感覚に目を塞いでいた手の場所を口に変える。ウォシュレットだとは考えにくい……。 「智志くん、まだ気持ち良くないでしょ?ごめんね、俺頑張るからちょっと待ってて、ね?」 「……っ」  喋るために離された舌も、その場で喋られたら吐く息が少しで当たって、結局俺の感じ方は変わらない。  感じた?  いや、変な感じの方の“感じた”であって決して気持ちの良い方の“感じた”ではないんだが……王司はそれをわかっているみたいだ。  さすがバリタチ……こういう時だけバリタチ扱いの王子様だな……。 「ローションあればいいんだけどね……でも智志君のここには挿れない約束だから……」 「いれ、たらっ、血祭りだぞ……!」 「それもいいよね」  楽しそうに言う王司には逆効果な暴力的祭り。  しかし、ぎゅっと絡まれてる手は指の一本一本から伝わるそれぞれの力。  なんとなく、あぁ舌先が入ったような気がする、という思い込みで握っている手に力を入ると王司は素早く舌を出して、その指で俺の手を撫でてきたり気持ちをもう一度、昂らせようしているのか舐めてくる舌の動きを大きく内腿にまで這いずってきたりと、王司のなかで俺を怖がらせないよう慎重にしてくれてるみたいだ。  その伝わる気持ちが、俺のなかで好感度を上げる。 「はぁ、ん、やっぱ……気持ち悪ぃな……」 「ん、うん、ごめんねっ。でも俺さとしくんと、繋がりたい……エッチしたい……」 「お前なぁ……繋がりたい、で言葉やめろよ。雰囲気壊れるだろ……ンん」  ブルッと震えた体は、実は反応して跳ねた体なんじゃないかと疑って止まない――アナルコミュニケーションをしていたのであった。  あ、今の俺すっげぇ寒いわ。  

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