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「智志のことが好きだよ、」/白編

   夏休みも明けて、ざわめく7組のクラスはいつも通りだ。  窓側の後ろから三番目の席。いつもそこには人だかりが出来ている。  異性はもちろん同性にまで魅了するようなその笑みには、素晴らしく腐った根性と性癖が隠されているのも知らずに、みんな騙されていく。 「平三、どうした?」  呼ばれる名前に振り返れば、珍しくも眼鏡を掛けた姿の生徒会長――順平がいた。  五十嵐(いがらし) 順平(じゅんぺい)。  この学校を仕切る生徒の中でも唯一の権力者で、俺のお相手さんでもある、男だ。 「いやぁ?別に、通っただけで、ついでに順平がいるかどうか覗いてたんだ」 『まぁすぐに目が行ったところがあるけど』  なんて付け足しながら王司を指差すと順平が頷きながら眼鏡のブリッジを上げる。  突然の部屋移動には智志からしたらいい迷惑だったかもしれない。俺自身、興味のないこと以外に耳を傾けない智志が心配で、この話を持ちだされた時は悩んだ。  人との接触をあまり好まない智志に。それが苦手であると何度も聞いてきた智志に。新しい同室者と上手くやれるかどうか、って。  俺がそこまで心配してもしょうがないことはわかっているが、どうしてもな……。  あいつは良い奴だから。無意識に、そういう奴になってるから。  わかってくれるような人に当たればいいけど、なにも関わろうとしない智志とぶつかったら、きっと上手くいかない。  最初の俺がそうだったからな。 「まだ時間があるな……平三、どっか行こう」 「つっても、あと10分ぐらいだぞー?」  なんて言いながらも腕を掴む順平の手をはらわず笑う。  好きな人の背中を見ながら、他の男を想うのは、どうかと思う。けど、ここは語らせてよ。  俺と智志の最初をさ。  入学式の日と同時に決まった寮内の部屋。  中高大一貫としての進学校だが俺は高等からの外部入学生としてやってきた。  家が転勤族で学校も留まらず、子供でも疲労を感じるほどの動きっぷりだったのを覚えている。  だけど親は仕事のためにやっているし、かといって息子の俺を放置するわけでもなく気にかけてくれてたから、他の家よりも幸せに暮らしていたのかもしれない。  ただ、中学二年生の終わりごろ。最初は母親の方だった。  仕事の都合で海外に行くことが決まった云々と話されたのは。そしてその一週間後、狙ったかのように父親も、国は違うが海外へ飛ぶと聞かされた。  さすがの海外には不安もあって、母親が『考えられるなら、考えてみて?』と。その結果で俺は全寮制に入学。ここまではどうでもいいとして、問題はその同室者だった。  サッカーをはじめにスポーツを得意としていた俺の成績は特待生の枠には当たり前に入らず、二人一組または三人一組の部屋に決まっている。  その時、運良くも二人一組の部屋で、あぁ一人の相手なら――と考えていたんだが、その考えがいけなかった。  中沢 智志と名乗った平凡でそこらにいる男だと思っていたが、どうも掴めない男。  転々と学校が変わり、短い間だと決めつけていたからイザコザも起こさず平和に、上辺な関係を保つクラスの仲間と打ち解けられるようコミュニケーションは大事にしていたんだ。  俺は人見知りではないが友達は数える程度……もしくは、いないだろう。だが、どんな相手でもいけると思った。それに今度は短い間ではない。  少なくとも三年間は過ごせる場が出来た。これは、上辺だけの関係じゃいけないだろうと。  必死に打ち解けようと、まずは同じ部屋である中沢 智志から向かっていこうとしたのに――挨拶だけで他はなにもなし。  たまにゲームをする姿を見たりするが、俺がわざわざソファーに座ってまで見るような関係でもないので、すぐに自室に戻ってみたり。  とにかく困った相手。クラスも一緒で担任から、同室者だからもう仲が良いと勘違いされてよくペアを組まされていた時期もあった。  それも、いいんだけど、進まない、というか……。  

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