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巽大和の話④

翌日。 2人が金髪の不良を探す前に、その不良翼は目の前に現れた。 顔の至る所に傷を作ってる翼は、強気な顔で2人に喧嘩を売ったのだ。恐らく、昨日から休まず喧嘩していたのだろう。 何故そんなに喧嘩に明け暮れるのか分からない。 何をそんなに争っているのかわからない。 大和が喧嘩をするのは特に理由はない。 敢えて言うなら自分より強い雪に興味を持ったから。何かに逃げるように喧嘩に明け暮れる翼が大和には理解できなかった。 「私は、俺は強い。あなた、お前より強い。」 殴りかかってきた翼を大和が止める。弱々しい拳は簡単に掌に収まった。代わりに大和は翼を殴り飛ばす。 文字通り吹っ飛んで行った翼を見て、雪はため息をついた。 「そこまでする必要はないだろう。相手は既に虫の息だったはずだ。」 「あいつはタフだから大丈夫だろ。」 その言葉通り翼はむくりと起き上がった。悔しそうに顔を歪める。大和は翼をじっとみつめる。 「目が覚めたか?」 「こんなところじゃ目覚めなんてよくないですね。なんで、大和…巽がここに。」 「昨日も会ったのに覚えてないんだな。本当になんも見えてない。」 「煩い。」 「お前、何がしたいんだ。こんなところで暴れて。」 「煩い!!あなたにはわからないでしょうね。お、俺の気持ちなんて!」 「ああ、分からないな。お前のちっぽけな反抗期なんてクソどうでもいい。」 「んなっ、反抗期なんかじゃ…。」 「反抗期だろ。家から飛び出てこんなところで不良ごっこ。挙げ句の果てに俺の気持ちは分からないだ。」 「…あなたは全て持っているからわからないんです。両親に期待され、望まれた未来がある。私には両親からの期待も、未来もない。橘家には私なんて必要ないんです!!」 期待されるのは兄。 望まれているのも兄。 次男なんて長男の代用品でしかない。 いくら勉学を頑張ろうと誰も褒めてくれない。 こんな小さな反抗にも気づかれない。 自分は必要とされていない。 「長男が幸せだと思うか?」 「あなたは…。」 雪が口を開く。 思い浮かべるのは決まった未来。 父からの命令。 そして、弟の夏乃。 「お前は自分の事しか考えてない。兄は両親の期待を一身に背負っているのかもしれない。だが、その兄には自由な未来は存在しない。逃げ出したくとも、弟の為にも自分勝手な行動はできない。 もう少し周りをよく見ろ。よく考えろ。悪い事しか考えないから思考がおかしくなるんだ。ないものをいちいち数えるな。持っているものを一つずつ数えていけ。」 「…。」 年下の男に説教できるほど自分は出来た人間ではないな。 雪は思う。 弟の為に努力しているのだったらこんなところでストレス発散のために喧嘩をしていない。本当に、何を言っているんだ。自分があくまでも正しいとでも言いたいのか。 「私は何も見ていなかった?」 「翼、もう一度言うが、俺にはお前の気持ちは分からない。雪のように弟もいないから兄弟のいざこざも知ったこっちゃねぇ。だが、俺はおまえがこのままクズに成り下がっていくとこなんて見たかねぇ。」 「巽…。」 「もしも、お前が家族にとって必要ない人間なら俺が代わりにもらってやる。俺の下にこい。それなら、存分に使ってやる。」 「ふっふ、私を使おうと?私は高いですよ?」 「上等だ。その代わりもう自暴自棄になるなよ。」 「なってませんよ、最初から。」 「よく言う。」 大和と翼、仲が深まった瞬間。

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