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第110話

階段を上がる。 これ以上上がっても、あるのは屋上だけ。 屋上に何かあるのか。 「おいっ、なんで屋上なんだ。」 「去年の記憶、抹消でもしたか?花火、見せてやるよ。特等席でな。」 花火? 花火って…。 ああ、そうか。後夜祭の…。 屋上のドア、開けたらすでに生徒会の面々が揃っていた。 「巽、夏乃、遅いですよ。」 「こいつがもたもたしてたからな。」 「萌斗…ど?」 「見送りはこいつのせいで出来なかったが、今は海外の高校に戻って上手くやっていってるそうだ。」 「良かったねぇ。それで?夏乃と大和くん何かあったの〜?」 「なんもねぇよ。」 ニヤニヤと笑う時雨がウザく容赦なく足を踏んだ。痛いっという声を無視して、空を見上げる。 校庭の方では生徒たちが集まって、ざわざわと騒がしい。 それも打ち上がった花火によってピタリと静かになった。 俺はジッと花火を眺める。 1年、とても早かった。あっという間で、いろんなことがあった。酷く遠回りした気がする。 1年前この学校の生徒会に入ろうと決めた。真面目に生徒会の仕事をしていたのに誰にも自分の存在に気付いてもらえなくて、イラついた。 二階堂萌斗のせいで、気づかなくていい感情が生まれた。せっかく真面目に働いていたのに全てがぱあになった。 瀬野のせいで、兄さんや生徒会の奴ら、多々や真斗を傷つけた。自分がこんなにも弱いのだと知って酷く落ち込んだ。 目まぐるしく回った1年はあっという間だった。 本当にいろいろありすぎた。 でも、情けないことも沢山あったけど、悪いことばかりじゃなかった。 兄さんや父さんとやっと家族に戻れた。1年前にこいつらと生徒会するって夢叶ったし。自分の周りの大切なものにも気がついた。 それに、気づかなくていい感情も残骸悪くないもので。 苦しいし、無いほうがいいし、負けた気もするけど、でも俺はこの感情を大切にしたいと思ってしまうんだ。 あれ?そういえば、俺、あいつにちゃんとした返事貰ってねぇな…。 チラリと見ると、巽と目があった。俺だけ言うこと言ってなんかムカムカする。結局こいつはどう思ってんだよ。 この後俺はどうすればいいんだ。 「百面相してどうした。」 「うるせぇ。」 再度花火を眺める。後で考えよう。今悩んだってどうにもならない。綺麗な花火を見上げよう…。 「夏乃。」 「なんだよ。」 俺は花火を見るんだ。 なんて、言葉を発しようとした。 その前に巽の顔が思っていた以上に近くにあって、そのまま唇が当たった。 巽の唇と。 まさしくキスで。 思考ははっきりしているが、どうにもいろいろと追いついていない。 「ふっ、まぬけ顔。」 「うるせぇ。なんなんだよ、お前は!!」 「好きだ。」 「は…。」 今なんて。 「お前を好きだ。これでいいか?」 「なっ、なっ、なっ。」 「返事はねぇのか?」 「んなっ…。」 返事ってなんだ。 返事って。 それはこっちのセリフだ!! 俺をいいように扱えると思うなよ。 巽の腕をひいて今度は自分から唇を当てる。 「好きだよ。ばーか。」 「上等。」 おわり

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