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第109話

巽の腕を握りしめて歩く。 沈黙。 沈黙。 沈黙。 ただ、歩く。 最初に口を開いたのは巽だった。 「俺はいつの間にお前のものになったんだよ。」 「煩い。」 「夏乃。」 「煩い!!…悪いかよ!!お前、俺にあんな真似しといて、二階堂萌斗にも簡単にすんのかよ。キス!お前は簡単に許すのかよっ。お前にとったら、そりゃあ誰にでも平気でできる代物かもしれねぇ。でもな、俺にとったら特別で貴重で…。ただ、お前に愛されてるかもって期待して。ああ、そうだよ。俺は誰とも付き合ったこともないガキだよ。単純な阿呆だよ!!」 うまくいかない。 うまくいかない。 好きと素直に伝えられない。 ただ、暴力のように自分の気持ちを伝えるだけ。でも、でも、それでも俺は…。 「悪いかよ…。お前を好きでいて、悪いかよ…。」 流れる涙は止まらない。 こいつにとってのキスなんて愛情表現でもなんでもない。道楽でキスできる奴なんだ。 あれはそういう意味ではなかった。 それだけだ。 思わせぶりの態度とって裏で笑っていたのかもしれない。 単純で哀れな俺を笑っていたのかもしれない。 「はぁ…。」 目の前で溜息を吐かれる。 ああ、呆れられたか。 そうなのか。 馬鹿だ。 馬鹿みたいだ。 なんで、言った。 言わなければ良かった。 なんでだ。 なんで…。 「萌斗のキスは避けるつもりだった。」 「は?」 「俺はそう簡単に好きでもねぇ奴に唇を奪われたりしない。萌斗を止める前にお前が飛び込んできたけどな。」 でも、だって、お前は俺にキスしたじゃないか。こっちはそれで気が気じゃなかったってのに、お前は普段と変わらない。まるで、俺とのキスなんてなかったみたいに。 「あの時のあれはなんだったんだよ。あのあと、お前が退院しても俺に、俺にキスしたくせになんで普通なんだよ。こっちは、こっちはな…。ふざけんなっ!!ざけんじゃねぇよ、くそ…。」 「だから、言ってんだろ。好きでもなんでもない奴にキスなんかしねぇよ。拗ねんなよ、ばぁか。」 「拗ねてねぇ!!」 だけど、それってつまり、そう言うことなのか?俺はこいつに…。 「ふっ、スッキリしたな。じゃあ行くぞ。」 「行くってどこに?ってか今の言葉って…。」 話を聞く前に巽は歩き出す。何を聞いても答えてくれなさそうな雰囲気に早々に諦め、その後をついていくことに決めた。

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