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第108話

夕方。 最後の仕事を終わらせた俺は多々と一緒に屋台を回っていた。 文化祭ももう終わる。 生徒達は後夜祭に向けて動き出している。 「もう、終わりだな。」 「ああ。」 「…会長に告らなくていいのか?」 「殴んぞ。そもそも今日はほとんど会ってねぇよ。」 「そうなのか?なら、ちょうど良かったな。あそこにいるぞ。もう生徒会がすることないんだろ。告りにいけば…。」 「しつけーぞ。」 多々が指差す方へと目線を向ける。 素直になるって決めた筈だった。だが、なんとなくタイミングとかそんなものが掴めない。 やっぱりここは男らしく…。 「あれ?あれって…。」 「あっ…。」 もう一度目線を上げると、巽の横に二階堂萌斗がいた。 「なんであいつが…。」 腰に腕を回してエスコートをしている。二階堂萌斗は頬を赤く染め、巽は穏やかに微笑んでいた。 なんだあれ、なんだあれ。 知らない間に拳を強く握っていた。ただ頭の中はどこかスッキリしていて、怒りや悲しみの感情はどこか欠如していた。 「夏乃、夏乃!おいっ追いかけなくていいのかよ。」 「あいつが誰といても俺には関係ないだろ。」 「あー、もう仕方ねぇな。」 多々に腕を掴まれ、引っ張られる。 「おいっ‼︎」 「しょぼくれてないで行くぞ。」 巽と二階堂萌斗は屋台を回ってから、人気のない裏庭に入って行った。 俺たちは柱の陰に隠れる。 「あー、ここからじゃ声聞こえないな。」 2人は何かを話している。近くに行こうにもちょうどいい隠れ場所はない。酷くもどかしい。 『僕、負けないから。』 二階堂萌斗が言った言葉。 それは巽をまだ好きだということ。 あいつは言葉通り諦めずに行動に移している。俺には真似できないことを。羨ましくも憎らしい。俺はここで何をしているんだ…。 二階堂萌斗が巽の腕を引っ張る。 巽と二階堂大和の顔が近づいて…。 「あっ…てっ、夏乃!!」 後ろで多々の声が聞こえた。 だがそんなのどうだって良かった。 いつもなら絶対死んでもしない行動。それを抑止する思考は止まっている。 巽と二階堂萌斗の間に無理やり入りこんで、二階堂萌斗と向き合う。 「こいつ、俺のだから。」

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