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6月 part1-2
「そこ、氷の成形に時間をかけすぎだ!」
「なんだそのグラスの磨き方は!繊細なグラスを傷つける気か!」
「掃除の仕方が甘い!椅子の下に埃が溜まっているじゃないか!」
閉店後の店内に、オーナーの佐久間さんの怒号が響き渡る。
佐久間 登さん。48歳。
『ワールド・カクテル・チャンピオンシップス』での優勝経験を持つ、すごい人だ。
営業中は穏やかな笑みを浮かべている佐久間さんだが、お客様がいなくなると、途端に指導に熱が入る。
佐久間さんの昭和堅気な指導についていけずに、毎年、何人もの新人が消えていく。
俺…月城 拓叶(つきしろ たくと)…の夢は、30歳までに自分の店を持つことだ。
ここ、バー・アンベリールには、独立開業支援制度がある。
オーナーの佐久間さんに選ばれし者は、帝東ホテル、バー・アンベリールお墨付きの称号を得て独立することができる。
それだけではない。
メニュー開発、店舗の立地、店舗ロゴ作成、食材業者・酒類メーカー紹介、看板デザイン、内装工事、厨房機器の設置、スタッフの手配、各種許可申請、さらにホームページ作成に至るまで、佐久間さんのアドバイスや助力を得ることができる。
約半数が開業して2年以内で店を閉じる、といわれている飲食業界。後ろ盾があるのとないのとでは全然違う。
ただし、誰でもその切符を手に入れられるわけではない。5年に一度行われる、店内コンペティションで勝ち残らなければならない。そして、来年の2月…あと8ヶ月後にコンペが行われるのだ。
俺は、今年の誕生日で29歳になる。なんとしても、勝利の切符を手にしたい。
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