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8月 part 1-2

「そうだ、拓叶くん。久しぶりに、エリートバーテンダーカクテルコンペで優勝した、君の創作カクテルが飲みたいな。彼女の分も頼む。ぜひ彼女にも、君のカクテルを飲ませてあげたくて」 「かしこまりました」 俺はカウンターに立つ。 シェイカーに氷と水を入れ、氷の角を取り、水だけを捨てる。ウォッカ、ホワイトキュラソー、クランベリージュース、ライムジュースを3:1:1:1の割合で入れる。シェイクすること、35往復。ストレーナーを通して、静かにカクテルグラスに注ぐ。扇型に切ったライムと、フローズンクランベリーをカクテルピンに刺し、飾りつける。 俺の…月城 拓叶の創作カクテル〈NEW TOKYO〉。 オーナーの〈クイーン〉には遠く及ばないが、一応、俺なりにこだわって作っている。 例えば、ウォッカは、クランベリーやライムの風味や香りをより生かすために、癖の少ない『フィンランディア』を使ってみたり。 フルーティさをより感じさせるために、ホワイトキュラソーは『トリプルセック』を使ってみたり。 ジュースも、果汁100%のもので、産地までこだわってみたり。ライムの果汁も少し加えてみたり。 だから、藤沢さんがこれを注文してくれるのが、すごく嬉しい。ふわふわと弾むような心を隠して、恭しく銀のトレーに載せて運んでいく。

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