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8月 part 1-3
「ありがとう。さすがは拓叶くんだ。本当に美しいカクテルだね。
…あ、玲子さん、髪に何かついているよ。ちょっと待って…よし、取れたみたいだ。
じゃ、玲子さん、乾杯」
カクテルグラスを合わせる藤沢さんと、玲子さんと呼ばれた女性。俺は一旦下がり、カウンターで乾杯を見守る。
さて、藤沢さんの好みは、少しビターな味だったな。今日は何をご提供しようか…
突然、バーの中が騒ついた。
グラスが落ちて割れる音、人々の悲鳴や呻き声、右往左往する足音。
なんだ?何が起こった?
「おい!何をやってる!」
オーナーが走ってきて、揉めている二人の影の間に入る。
ひとりは…藤沢さん!?左のほおを押さえ、床に座りこんでいる。まるで、誰かに殴られたみたいに。
そして、もうひとり…つまり、殴った方は…
え、七星!?
喧騒冷めやらないバーの店内で、俺はただただ呆然と立ち尽くしていた。
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