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9月 part 3-1

バーの絨毯張りの床に仰向けに押し倒され、手首を縄でぎゅっと縛られた状態で、俺は桐谷を睨む。桐谷は俺の上に馬乗りになり、俺の両肩を抑え込んでいる。 背中が痛くなるほど、両足をばたつかせ、暴れているのに。こいつはただ無表情で、俺を見下ろすだけだ。 桐谷は冷たい目をしたまま、口を開く。 「オレは、オンナじゃ興奮しない性質でな。 去年の、『エリート・バーテンダー・カクテル・コンペティション 』関東大会。何気なく見に行ったその大会で、おまえを見た時、衝撃が走ったよ。 短く硬そうな漆黒の黒髪、意志の強そうな光を放つ目、若さ故の不遜さに溢れた口元、日に焼けたような健康的な肌。体幹がしっかりしている綺麗な立ち姿勢。 背伸びした少年のような、成熟した大人のような…そんなアンバランスさを感じる色気。 ステージ上でカクテルを作るおまえは、最高に輝いていた。あまりの感動に、全身が総毛立ったよ。 あの時からずっと、こいつをオレのものにしたいって、そう思い続けてたんだよ」 両手首を縛られてるだけだ。動かないわけじゃない。 俺は、まるで空手の手刀のように、縛られた両手ごと、勢いよく桐谷の頭に振り下ろす。 「…いってえな」 桐谷は無表情のまま、自分の左手で、俺の縛られている手首を掴む。そして、俺の頭頂部あたりの床に押しつけ、体重をかける。 至近距離にある、桐谷の顔。奴の顔に、歪んだ笑みが浮かぶ。 くそっ、細身のくせにびくともしねえ、こいつ!

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