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10月 part 2-3
「なあ七星。おまえ、来週の休み、何曜?」
俺の言葉に、七星は驚いたように顔を上げる。
「あっ、はい!来週は水曜ですけど」
「俺も、来週は水曜が休みなんだよ。
…あのさ、七星。
えっと、いつも閉店後、付き合ってもらってんじゃん。歌舞伎町の桐谷からも助けてもらったしさ。
来週の水曜、一緒にメシでも行かね?いつものお礼におごるからさ」
俺は七星の方を見ずに、人差し指でほおを掻きながら言う。
…なんで照れてるんだ、俺。別にデートに誘ってるわけじゃないだろ。落ち着け落ち着け。
「拓叶さん」
七星の呼びかけに応えるように、視線を向ける。もしかして、なんか用事でもあるのか?
七星はカウンターに入ってきて、俺の右手を両手でぎゅっと握りしめ、俺を見上げた。
「すっごい嬉しいです!ありがとうございます!
お礼とか、おごるとかじゃなくて!拓叶さんと一緒にお食事できるなんて!
なんか、盆と正月と、ゴールデンウイークとクリスマスと、ついでにシルバーウィークまで一緒に来たくらいの気持ちですっ!」
「おまえ、大げさすぎ…
てゆうか、飲食店の繁忙期が、そんなにいっぺんに来たら死ぬだろ、マジで」
七星のきらきらした瞳に耐えきれず、視線を逸らしてしまう。握られてる右手が汗ばんでるような気がして、なんだか落ち着かない。
「あー、とは言ったものの俺さ、いつもファミレスとかチェーン店しか行かないから、いい店なんか知らねえんだけど。おまえ、なんか知らない?」
七星の顔を見ないまま、俺は七星の言葉を待つ。
「じゃあ僕、行ってみたいお店があるんですけど。もしよかったら、予約しておいていいですか?」
「ん、任せる」
…だから、デートとかじゃねえって!落ち着け、俺の心臓!
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