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11月 part 1-3

「ベースのお酒選び…インフューズを使うのもいいんですよね、拓叶さん」 インフューズとは、ジンやウオッカ、ラム、テキーラなどのスピリッツに、果物やハーブを漬け込む技法だ。 殺菌消毒された密封瓶に、ベースとなるお酒と、果物やハーブを入れ、1日~1週間ほど置いておく。 生の果物だけでなく、ドライフルーツ、コーヒー、トマトやキュウリなどの野菜、トウガラシ、チョコレートや風船ガムをインフューズすることもある。 果実酒と違って数日でできるし、自分好みのフレーバースピリッツにすることができるという利点はある、が… 「インフューズなあ…。使っちゃいけないわけじゃないけどさ、再現性が乏しいじゃん、あれ。一度作ったおいしい味が、また再現できるか分かんないしさ。衛生面も気を遣わなきゃいけないし、そんな不安定な技法、使いたくねえよ」 腕組みをして言う俺に、七星は笑いかける。 「そうですか?僕は好きですよ、インフューズ。飲み頃になると、密封瓶の中から、『私を飲んで!』って声が聞こえてくるんです」 「怖えよ!もはやホラー映画じゃねえか!」 たぶん、香りで飲み頃かどうか分かる、ということなのだろう。…えっ、そうだよな、七星…

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