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1 ちょっと見てみたい
俺の同室者であるラグレイドは、背が高くて逞しく、とても男らしい身体付きをしている。
黒髪に褐色の肌をしており、顔もすごくイケメンだ。
だけど吊り上りぎみの眉のせいか、表情が無駄に硬いせいなのか、怒ってる風に見えてしまって損をしている。実際のラグレイドは滅多に怒ることはなく、穏やかで優しいひとである。
ラグレイドは黒豹の獣人だ。
頭部には黒い豹耳がついており、背後からは黒くて長い尻尾がのぞく。強い攻撃系の魔力を持っており、騎士団所属の立派な騎士でもある。
俺は一ヶ月ほど前に王都からこの獣人地区へと、職場の命令に従いやって来た。
右も左も分からない獣人ばかりの生活だったが飛び込むしかなかった。獣人地区での規定に従い、魔力波長が合う相手として選ばれたラグレイドと、共同生活も行なっている。
初めのうちは慣れなくて、いちいち戸惑うことばかりだったけれど、気が付けばいつの間にか慣れつつある。
最近ではこの生活が、案外居心地いいなあなんて思ったりもする。
現在俺が暮らしているこの獣人地区では、住民のうちの99%が獣人だ。
種類や姿は人によって様々で、犬系、猫系、熊やリスやカバ、牛系の獣人だっている。獣らしい外見の者もいれば、人と変わらない姿の者もいる。
みんな意外と仲が良くて、穏やかに平和に暮らしている。
「シオさん、よかったらこれをあなたにあげます」
仕事の合間の休憩時間、突然隣の机のクタさんから箱をひとつ渡された。ノートくらいの大きさの、とても軽い箱だ。
クタさんはリス系獣人だが、見た目はほとんどただの人だ。仕事のことや獣人地区での生活習慣のことなどを、いろいろ教えてもらえるからありがたい。
「これは新品なので安心してください。自分はしばらく使う気分ではないので」
クタさんはそう言って少々目立ってきた自分のお腹をなでた。
クタさんは男性だけど結婚相手も男性だ。Ω体質であるクタさんのお腹には、彼とのお子が宿っている。
もらったはいいけれど、箱の中身は何だろう。
そろりとふたを開けようとしたら、
「今は開けてはいけません」
クタさんに開けることを止められた。
クタさんはとても真面目な職員さんだ。もうすぐ休憩時間が終わるのだし、仕事をそっちのけでプレゼントにうつつを抜かすなんて良くないということなのだろう。クタさんには見習うべきところが多い。
「中身を見たら、周りがえっちな気分になってしまいます」
「え?」
クタさんはあくまで真面目な顔つきで、ひとつ大きく頷いてみせた。
「家に帰ってから、一人でこっそり開けることをお勧めします」
「・・・・・わ、分りました」
いったい何をくれたんだ。
見ただけでえっちな気分になってしまうモノだというのか。
気になりすぎる。それに、周りの職員さん達からちらりちらりと向けられる箱への視線が微妙に気まずい。
宿舎の部屋へ帰ってから、俺はさっそく自室でこっそりもらった箱を開けてみた。
中に入っていたのは、ひらひらのレースの布だった。
ところどころに桃色の花の刺繍があしらわれ、とても可憐で可愛らしい。端をつまんで持ち上げてみると、どうやら服のようになっている。ネグリジェ、というやつだろうか?
しかしなるほど。
これはえっちかもしれない。全体的にスケスケなのだ。
こんなものを職場でひろげてしまったら、みんながえっちな想像をして、えっちな気分になってしまっていたかもしれない。
誘惑に負けて開けてしまわなくて本当に良かった。
だけどこれを自分が着るとなると、どうなのだろう? 似合うのだろうか。ふつうに地味な男である自分に。
でもラグレイドならば、ちょっとはびっくりしてくれるかもしれない。
なぜならばラグレイドは、たまにベッドで俺の身体を舐めながら、股間を腫れさせていることがあるからだ。
どうやらラグレイドは、俺の身体で性的な興奮を覚えることがあるらしい。本人の口からはっきりとは聞かないから、実際のところはよく知らないが。
これを着て見せたら、びっくりしてちょっと動揺したりなんかしないだろうか?
俺はラグレイドが動揺するところを今まで一度も見たことがない。
ラグレイドは常に冷静で落ち着いている。いつも穏やかで、大人だなあと思う。俺なんか目玉焼きが焦げそうなだけであたふたするし、散歩中にでっかい蛾が飛んで来ただけでギャーとなるのに。
見てみたい。黒豹騎士がちょっとびっくりするところ。
試しに今夜、着てみようか。
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