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2 アピールが必要か

 ラグレイドの作ってくれるごはんはいつもおいしくて大好きだ。  今日の夕飯のメインはハンバーグだった。とろとろの半熟目玉焼きが乗っていて、フルーツの味のするソースがたっぷりとかかっている。あったかいスープも香りがよくてお腹に沁み入る。しゃきしゃきした歯ごたえの、何だかよく分からない食材の和え物もとっても旨い。  夢中になってもぐもぐ頬張っていたら、いつの間にかラグレイドからもの凄く優しげな眼差しを向けられていた。  なんだかちょっと恥ずかしくなる。  俺はあまりテーブルマナーとか得意じゃなくて、たまに食べこぼしたり、口の周りを汚したりする。  食事が美味し過ぎるのも問題だ。つい食べることに夢中になりすぎてしまう。口の周りとか汚れていないだろうか?   俺が姿勢を正して口の周りを気にしていたら、 「遠慮はしなくていい」  ラグレイドはそう言って、美しい琥珀の瞳を穏やかに艶めかせた。  ラグレイドははっきり言って顔が良い。こんな風にリラックスしているときには特にその顔の良さが際立つ。顔だけじゃない。無造作な黒髪だって、無骨だけど形の良い大きな手も、太くて逞しい首筋や、厚みのある肩のラインも、全部がかっこいい。  そういえば、同居当初のラグレイドは部屋の中でももう少し難しい表情をしていたなと思う。彼も俺との生活に慣れ始めているということかな。 「・・・・旨いか?」 「あっ、うんっ。今日もすごく美味しいよ!」 「おかわりもあるが、」 「するっ、おかわりするっ」  ハンバーグと丸パンをおかわりしてしまった。しあわせだ。美味しいごはんってしあわせだなぁ。 「シオはあまり太らないタイプなのだな」  食後のお茶にゆったりと口を付けながら、ラグレイドはそう言って俺の身体に視線を向ける。  今日のデザートは木苺ジャムののったアイスクリームだった。俺はアイスをすこしずつスプーンで掬って口に運んでいた。夕飯をすっかりお腹に収めたあとだったけれど、デザートは別腹なんだ。  琥珀色の視線が俺の身体の形をなぞるように移ろうのを感じ、俺もつられて自分の体に目を向けた。  たしかに俺はそんなに太らない体質だ。痩せ形かもしれない。でもヒョロヒョロというわけではない。健康だし別にこれでいいと思っている。  けれど、普段騎士団でマッチョを見慣れている騎士にしてみたら、この身体は貧弱なものと映るのかもしれない。  もしかしたらラグレイドは、ムチムチで筋肉マッチョなボディのほうがお好みなのだろうか。だから毎日こんなにおいしい物をいっぱい俺に食べさせるのか? 「で、でも、ここへ来てからちょっとは肉が付いたんだよ」 「どのあたりに?」 「えーっと、こことか、この辺りとか」  二の腕や太ももを指差すと、ラグレイドは目を眇め、俺が指差した辺りをじっと見る。 「ならばあとで確認しよう」  しまった。運動不足なことがばれてしまう。いや、もうばれてはいるのかな。  だって毎日一緒のベッドで寝ているし、ベッドの中ではよく身体中を触られたり舐められたりする。  もっと鍛えろとか言われたら嫌だなあ。筋トレは苦手だ。俺はなぜだかあまり筋肉がつきにくい体質だ。だけど別に華奢というほどではないと思う。ムキムキではないけれどちゃんと筋肉はついてるし、痩せていたってなにも問題はないはずだ。  この身体にも良いところはいっぱいある。(と思う。)俺はこの体の肉体的な魅力のアピールを、もっと積極的にしていくべきなのかもしれない。    シャワーを浴びたあとで、さっそく「例のもの」を試着してみた。  「例のもの」とは、クタさんからもらったぴらぴらレースのネグリジェのことだ。  こんなスケスケでえっちな衣装を身に付けることに若干の抵抗を覚えるのだが。  でもラグレイドの驚く顔を見てみたいし、それにムキムキだけが魅力ではないことを解ってほしい気持ちもある。  なんだか俺はこれを着ることに、使命にも似た熱い気持ちを感じていた。  だけどネグリジェは、予想以上にえっちなものだった。  胸元が深くえぐれていて、しかもボタンがない。左右の身ごろを前で重ねて腰紐(リボン?)で結ぶ仕様になっている。  下衣であるズボンは布面積が異様に小さい。これはきっとショートパンツなのだろう。  だが身に付けてみて自分の認識の甘さを思い知った。下は一枚レースを腰で巻いて紐で結ぶだけの、いわゆるミニスカートのようなものだった。箱の底には小さな紙の注意書きが添えられている。『中に下着を付けないこと。』  ・・・・うーむ。  俺がこんなものを着て許されるのだろうか。  透け具合は絶妙だ。ちょうど乳首があたる部分を、桃色の刺繍の花があざとく飾る。  下なんて、ちょっとでも風が吹いたら中身がぴらっと見えてしまう。いや、目を凝らしただけでも見えるかもしれない。なんて心もとない夜着なんだ。  だけど、着心地は悪くなかった。薄い割には暖かいし、軽くて解放感がある。まるで何も身に着ていないみたいに楽ちんだ。スースーして気持ちが良い。  ・・・・案外いける。  上からガウンを羽織ってしまえば、まったく違和感も無くいつもどおりだ。  

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