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3 いつもと違う
寝るまでの時間は、だいたいいつも窓際の向かい合わせのソファのところで過ごす。
2人でのんびり音楽を聞いたり雑談をしたり。ラグレイドが何やら難しげな専門書を読んでいるようなときは、俺もなにか本を読む。
最近では簡単なカードゲームをすることもある。俺の知らない獣人世界でのメジャーなゲームを、ルールを教えてもらいながら一緒にやるのだ。
ラグレイドはゲームに強い。俺は良い所までは行くんだけど、何度やってもすんでのところで負けてしまう。ラグレイドはポーカーフェイスだから手の内を読みにくい。それにもしかしたら、ものすごく頭が良いのかもしれない。
俺が勝ったらラグレイドの豹耳を撫でさせてもらう、という約束だったのだが、今日も10回やっても勝てなかった。逆に俺はラグレイドに頭をなでなでされてばかりだった。ラグレイドが勝ったら俺の髪を撫でていいというルールだった。
つやつやの毛並みの黒耳、触りたかったなあ。
カードを片づけながらも名残惜しく騎士の耳を見ていたら、ラグレイドはちょっとだけ苦笑して、「少しだけ触ってみるか?」と言ってくれた。
それで今日は、ほんの少しだけ触ることができた。
ふわふわで艶々で触り心地がいい。それに意外と柔らかい。あったかい。
「満足したか?」
「うん!」
俺が笑ったら、ラグレイドもふっと笑って、頬にちゅっと口付けされた。
耳やしっぽにはベッドの中でなら触っても良い、と以前に言われたことがある。けれど、やはり許可がないと触りづらくてついつい遠慮してしまっていた。今日は触れてラッキーだった。
寝支度をして寝室へ行く。
寝室はすでに仄暗い照明にしてあって、ふかふかのベッドに上がっただけで眠気を誘われる。
ベッドの上でガウンを脱ぐ。脱いだガウンはいつものように丸めて足元へ置く。
「シ、・・・オ、」
あとからベッドに上がってきたラグレイドに、変な抑揚で名前を呼ばれた。どうしたんだろう珍しい。ハトが豆鉄砲を食らったような声を出して。
振り返れば黒豹獣人の男は、ひどく驚いた表情で喰い入るように俺を見ていた。
それではたと思い出した。今の自分の格好を。
「あっ、こっ、これはっ、たまたま仕事場の人からもらったやつでっ、」
「・・・・・」
「あっ、そうだっ。ほら、見て。こことか結構筋肉がついてるだろ? ほらこっちも、こっちだって・・・・」
気が付けば、ガッと両の二の腕を掴まれて、壁際に追い込まれていた。
「よく見せて」
低く掠れた声で獣人が言う。
そうして追い込んだ俺の姿を、舐めるように上から下へと視線を這わせる。
俺は相手の気迫に気圧されて思わず尻餅をついていた。そうして大事なところが見えそうなことに気付いて必死でスカートを押えていた。
ラグレイドの瞳が俺の目を見る。
「シオ・・・・」
俺はたじろいでいた。その目があまりにも真っ直ぐで真剣で。
じっと求めるように見つめられたまま顔が近付き、唇に唇が重ねられる。そうして身体を抱き込まれた。
相手の身体からはドクンドクンと強い鼓動が伝わってきた。呼吸も心なしか荒い。ポーカーフェイスで分りにくいけれど、相手が普段よりも興奮していることが伝わってくる。
ちょっと煽り過ぎてしまったかなあ、と俺はすこし反省をした。突然こんな格好を見せてしまって、驚かせて、申し訳なかったかもしれない。やっぱりいつもの夜着に着替えたほうがいいのかもなあ。
抱き寄せられた胸の中で、そんな風に考えていたのだが。
グウウゥぅぅ・・・・
突然、凶悪な猛獣の唸りのような怖ろしげな声が聞こえてきて、俺の思考はぴたりと止まった。
・・・・なんの声?
不穏な唸り声は、密着している大柄な身体の喉の奥から聞こえてくる。
ハッとして身じろごうにも、抱き竦めてくる腕の力が強すぎて動けなかった。屈強で強靭で、俺の力でなんか絶対に敵うことのない相手。
その相手が、なんか変だ。
本能的な恐怖に身体が竦んだ。
「・・・シオ、」
押し殺した低い声が、乱れた震える呼吸とともに俺の髪に吹き込まれた。
「・・・・この服、破ってもいいだろうか・・・・?」
や、・・・破る?
ぐっと体重を掛けられて、俺の身体は簡単にベッドに押し倒された。圧し掛かかり抑え付けてくる獣の身体はひどく熱くて、押し返そうにもビクともしない。荒い呼吸が耳に掛かる。
こんなの、いつもの穏やかなラグレイドじゃない。
黒豹獣人を驚かそうなんて、馬鹿な考えだったんだ。相手は獣人だ。もしかしたら獣人は理性を無くしたらただの獣になるのかもしれない。
熱くぬめった大きな舌が俺の首筋をべろりと舐めた。
こ、怖いよう・・・・っ
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