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第1話
都倉家の朝は5時に始まる。執事の田崎涼矢が動き出す時刻だ。
今日一日のToDoリストは既に頭に入っているが、リスケジュールが必要なニュースが飛び込んでくることもあるから、ネットや新聞、SNSを見て今一度最終確認を行う。最後にテレビでニュースを確認しながら身支度を整えたら、自分の朝食をとる。満腹だと散漫になるため、腹八分目どころか五分目ほどしか食べない。かといって栄養補給のみに特化したゼリーやシリアルでは済ませず、大概は具沢山の味噌汁に発芽玄米、少量の香の物を食べる。きちんと咀嚼し、箸を使うことによって、内臓を動かし、指先まで血を巡らせるイメージを持つ。
それから都倉家の主、和樹用の朝食準備が滞りなく進んでいるかを確認する。おおよその献立はあらかじめ決まっているが、和樹の前夜の体調やその日の会食予定を見て、細かな変更を加えることもある。
和樹は、朝食は部屋で食べる。本来ならメイドが持っていくところだが、和樹の朝食に関しては涼矢が持っていく。どうしてだか涼矢はワゴンを使わずに、両手で食事の乗ったトレイを持つ。メイドはその後ろについて、両手がふさがっている涼矢の代わりに扉をノックし、開けるところまでを手伝う。その後は早々に持ち場に戻るように厳命されている。
「おはようございます、和樹様」その時の涼矢の声が、いつになく甘く優しいのを聞かせないためだ。とは言っても、歴代メイドのほとんどはその声を知っている。都倉家の美しく若き主と、彼と同い年の執事の関係が気にならない者などいないからだ。
立場的には言うまでもなく和樹が主で涼矢が従だが、その立ち居振る舞いを見ていると、冷静沈着でなにごとも卒なくこなす涼矢と、天真爛漫で気の優しい和樹は、主従が逆転した親子か師弟のようでもある。
「ん……」和樹が一度の声かけで起きることは滅多にない。むにゃむにゃと口の中で何かを言って、また眠ってしまう。
涼矢は食事のトレイをテーブルに置き、和樹のベッドの端に腰掛ける。手を伸ばして、和樹の頬に触れる。それでも全然起きない朝もあれば、ぱっちり目を覚まして「おはよ」と素直に応える朝も、稀にだが、ある。
起きる気配がなくても、掛け布団を無理やりはぎとったり、肩を揺さぶったりはしない。そんな時は、頬に這わせた手を首元に差し入れたり、耳たぶをつまんだりする。時にはその耳たぶを甘く噛んだり、そのまま「和樹様」と囁いたりする。
今朝はそのどれでもなかった。
涼矢が頬に触れた手、その手首を、目をつぶったままの和樹がつかんだ。そして、自分の口元に持っていくと、その指先をペロリと舐めた。
「私の指は朝食ではありませんよ」涼矢はそう言いながらも、手を引っ込めることもしない。
「ん。でも、おいひい」涼矢の指先が唾液まみれになっていく。
「お腹、空いてるでしょう?」
涼矢がそう言うと、和樹はようやく目を開ける。「これも、食べさせて」和樹の指が涼矢の唇に触れた。
涼矢は身をかがめて、和樹に口づけた。和樹の両手が涼矢の首にまわり、もっともっととしがみついてくる。朝から激しいディープキスだった。
「もういいでしょう。食事をとってください」キスが途切れた瞬間に涼矢が言う。
「じゃあ、おまえにも食わせてやるよ」和樹は涼矢の手をグイッと引っ張り込み、自分の股間に当てた。「好物だろ?」
「これはただの生理現象でしょう?」涼矢はニヤリとする。
「朝勃ちじゃ不満なわけ? 贅沢だな」和樹はそう言いながらも涼矢を抱き寄せる。「これは今、キスしてるうちにこうなったの」涼矢の耳に舌を這わせた。「な、お願い。して」
「お願いは聞きかねます。時間がありません」
和樹はすねたような顔で涼矢を睨んだ。「じゃあ、命令」
「承知しました」
涼矢が和樹のズボンを脱がせる。下着を穿いていてもくっきりと分かるほどに勃起した和樹のペニス。昨夜も散々それを扱き、咥えた。それから半日も経っていないのにこれか、と内心思うが、涼矢にしてもそれは似たようなものだ。体型に合わせて仕立てたスーツがきつい。
「……立っていただけますか。スーツを汚したくないので」
和樹は素直に立ち上がる。涼矢はその前に膝立ちをして、和樹のペニスを舐め始めた。「これなら汚さないで済むの?」和樹はからかうように半笑いで言う。
「ふぁい」カリを舐めながら涼矢が律義に答える。
「全部……飲んでくれんだ? 一滴もこぼさずに」
涼矢は裏筋を撫で始め、その代わりに口を外して和樹を見上げる。「ええ。全部この中に出してくだされば」挑発的に口をぽっかりと開け、舌を出す。
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