9 / 10

第9話

「これからまだまだ、気持ちよくなれますよ?」涼矢は玩具の入った引き出しに目をやる。「和樹様が人払いしてくださったので、夕食会まででも、時間はたっぷりありますし」それから、意味ありげに和樹を横目で見た。  視線を察した和樹は、恐る恐る涼矢を見上げた。「もう……無理だって」 「何おっしゃってるんですか」涼矢は和樹に近づき、いきなり指を2本、中に突っ込んだ。「まだ欲しがってますよ、こっちは?」孔の中でくいっと指を曲げる。 「んっ」と和樹が身をのけぞらせる。 「ああ、でも、少し腫れてしまいましたね」涼矢は指先でそこを押し広げるようにする。「こんなに赤くなって。失礼しました」言うが早いか、和樹の腰の下に枕を積み上げ高さを作ると、股間に顔を埋め、和樹の孔へと舌を伸ばした。 「あっ……んんっ……!」和樹はそれを拒みはしないが、光景を目にするのを恥じらって、自分の腕で自分を目隠しした。 「ちゃんと見ていてください」一瞬顔を上げた涼矢が言う。歯向かえずにそっとうかがいみると目が合った。眼鏡の奥の目は笑っていない。いや、冷笑と言うべきか。  ペニスには触れられていない。ただ孔を(ねぶ)られている。それなのにまたぞろ勃起し始める。いつの間にか自分の下半身だけが露出させられている。対して涼矢は、ズボンはきっちり穿き直して、ジャケットも着込んだままだ。 「スーツ……汚したくないんじゃないの」精一杯の抵抗がそのセリフだった。 「一応気を付けてます。汚すおつもりですか?」  そう言い返されるとは思っていなかった。売り言葉に買い言葉で、和樹は「ああ」と言う。「おまえも下、抜いで跨れ」 「え?」 「挿れてやるよ、久々に」 「それは」 「命令」  涼矢はゆっくりと立ち上がったが、脱ぐのはテキパキと脱ぐ。「上は?」 「それは着てろ」 「良いご趣味だ」涼矢はニヤリと笑い、和樹に跨った。ジャケットは着ているが、ネクタイは和樹に引き抜かれた。ワイシャツははだけたままだ。 「おまえと同じだろ?」和樹も同じ格好だった。それから涼矢の下半身を一瞥して、「後ろは使ってんの?」と聞いた。 「いえ。和樹様だけですから」 「じゃあ、随分前だな」和樹はローションに手を伸ばす。 「自分でやります」涼矢が一足先にローションを取った。 「へえ」  涼矢は跨ったまま立膝になり、和樹の眼前で自分の指を後孔に当て、ほぐし始めた。 「んっ……」と言ったきり無言で、目を伏せ、しかめ面で指を動かし続ける。 「目、開けて。俺のこと見ながらして」和樹がそう言うと、涼矢はそっと目を開ける。 「好きです、和樹様」  涼矢のその言葉は、そのタイミングで聞かされるにはあまりにも場違いで、和樹は戸惑った。本当に涼矢が今言ったのかと疑わしくなり、無意識に涼矢の唇に触れた。「今の、もう一度」 「好きです。あなただけが」 「涼矢」和樹はたまらない気持ちになり、涼矢を抱き寄せる。首にしがみつくようにしていると、後孔をほぐす涼矢の振動が伝わる。 「挿れていただいて……いいですか?」和樹の耳元でそんな声が囁かれた。 「まだ早い。久しぶりなんだから、もっと、時間かけなきゃ」 「大丈夫です」 「痛いよ」 「いいんです。和樹様だって赤く腫れて」 「俺は……」和樹は涼矢の頭をぐっと抱え込むようにした。「気持ちよかった、から」 「キツくなかったですか?」 「キツいから良いんだ。奥、すごく、良かった。何度もイッた」自分の言葉に興奮して、和樹のペニスは益々硬くなる。 「じゃあ私もそうしてください」涼矢が和樹のペニスを握る。 「ん……」和樹は手探りでコンドームを探した。 「いいです、中に、ください」 「馬鹿、それこそ汚れる」 「全部中に出してくだされば大丈夫です」涼矢は孔から指を抜き、和樹に口づける。「あふれないように、全部、私の奥にください」和樹の返事を待たずに、涼矢は和樹のペニスを自分の孔にあてがった。 「はっ……」と短く息を吐きながら、腰を落とし、和樹を受け入れていく。 「平気?」涼矢を気遣う和樹の声が優しい。 「いいです、気持ち、いい……」 「涼矢」和樹は涼矢の顎を引き寄せてキスをする。「好きだよ。おまえが一番。涼矢だけが」 「和樹様」 「様、要らない」 「……和樹」 「そう」もう一度キスをし、舌を絡めあう。 「動いていいですか?」と涼矢が言う。 「敬語やめるならいい」 「分かり……分かった」  和樹は涼矢の腰を緩く支え、涼矢は自ら腰を振った。

ともだちにシェアしよう!