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三匹の子豚ゲーム❽
「あッ……!」
紫の顔が絶望に歪みます。
「俺の勝ちだ……! 紫……!」
翠は下品な笑みをこぼしながら、紫の喉元に犬歯を突き立てました。
が、そこにいるはずの紫をつかむことができません。
「ふふ、こっちですよ」
それは光を使役した紫の幻影でした。
翠が動揺した一瞬の隙に、木々が生い茂るように翠を掴み、羽交い締めにしました。
どれだけ暴れても、木々はびくともしません。
「私にとってお手紙はとても些細なものです。だって君が私を愛してくれる、それだけで私は嬉しいのですから」
翠の四肢の自由を奪った紫は、そっと彼のそばに寄り添って頬にキスをしました。
「でもお兄さん豚さんたちが、どうしてもって言うから……。服のお礼に、鍵を渡すことにしたのです。それにごっこ遊びだったとしても……誰かと衣食住を共にすることは楽しかった」
紫は翠に笑いかけました。
「翠くん、知ってますか」
また地鳴りが聞こえてきます。
「知恵を搾った狼は、煙突から家に入って……」
ぐぐ、と翠の体が持ち上がりました。
「熱い鍋の中へ落ちちゃうんですよ……!」
木の幹が家の煙突の中に向かって翠の体を投げ飛ばします。
「うわ、っ……!」
まじか、と翠は思いました。
煮え立った鍋の中じゃ、流石に無事じゃ済まされない。ぎゅ、と目を瞑りましたが、強い衝撃が体に走っただけで、熱さは感じませんでした。
灰が勢いよく壊れた部屋に散乱します。
暖炉は燃えてはいませんでした。煮え立った鍋もありません。
少し経って、翠の尻尾に付いていたはずの三つの鍵を持った紫が翠の前に現れました。
「いつか君とも一緒に暮らしたいですね」
「容赦ねえなぁ……」
「ふふふ、私の勝ちです。いいえ……私たちの、勝利です」
「……負けたよ」
翠は被った灰を払いながら言いました。
紫は笑いつつも、少しだけ不安そうに翠に駆け寄ります。
手をかざすと、翠が被っていた灰が徐々に消えていきました。
「お怪我はありませんか」
「どの口が言ってんだか……でも確かに、怪我してねえや」
翠は伸びをした後に、改めて紫を見下ろします。
いつもは長い三つ編みを纏めて、普段とは違う上品な洋服を纏った紫はやっぱり美味しそうでした。だけどそれ以上の衝動が翠の中で暴れ狂います。
それはとても儚いけど温かくて優しい気持ちでした。
「……なんかくらくらするな」
紫は微笑むと、ちょっと緊張した表情で翠に近づいて、控えめに手を取りました。
「……ちょっとなら食べても構いませんよ」
「ちょっとじゃきかないからやめとくよ」
翠はたまらなくなって紫を抱きしめました。
傷つけてしまわないように、優しく優しく抱きしめました。
翠はやっぱり狼だったけれど翠の匂いを感じました。どんな姿になっても、やっぱり翠が一番大好きだと思いました。
さて、と紫は顔を上げます。
なにもない場所を見つめる紫に、翠は首を傾げました。
「お兄さん豚たちを早く返してください……小夜ちゃん」
その声がきっかけだったかのように、なにもなかった場所から電灯が優しく点るように小夜が現れました。
「いつから気づいてたの?」
小夜は相変わらず赤ずきんの格好をしていましたが、魔女としての貫禄がありました。
「初めから」
紫は微笑みました。
その後、小夜が蘇生の魔法で二人を生き返らせました。
狼になった三人も元どおり人間になって、いつも通り、みんなで仲良く暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
……。
……え?
手紙の内容?
それはまた、別のお話で。
終
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登場人物が出てくる作品
翠と紫↓
・妖精の紫
https://fujossy.jp/books/12731
騎一と郁↓
・好きって言ったら振り向いて(他サイト)
https://estar.jp/novels/25150476
・レースとフリルの味がした。
https://fujossy.jp/books/14063
ミチルと春人と小夜↓
・ICHIKAのトルソーとハニーレモンフレバーの夜想曲(他サイト)
https://estar.jp/novels/24768199
ありがとうございました。
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