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第1話

 人間は、男女という性別の他に、三種類のタイプにわけられる。  すべてにおいて優れ、指導者たるカリスマ性をもつα(アルファ)。  一般大衆としてくくられるβ(ベータ)。  そして、――希少種であり、唯一αの(つがい)となる「性」を持つΩ(オメガ)である。 「…………Ω、ですか…」  中二の夏休み。  俺は、自分がΩであると医者に宣告を受けた。  診断結果を聞くために付き添ってきた母親が、診察椅子に座った俺の隣でひどく戸惑った声を漏らす。  だが、俺に母親を気遣う心の余裕などなかった。  ただただ、信じられなくて、現実を受け止めきれなくて呆然としていた。  なぜなら、その時まで、俺は自分がαであると欠片も疑うことなく信じ切っていたからだ。  診察室にまで聞こえてきたジィジィと騒々しい蝉の声が、からからに干上がった喉の記憶と共にやけに鮮明に耳に残り、長く俺を苦しめることになる。  俺の家族は、Ωの母親を除き、全員がαだった。  典型的なエリート一家として、業界ではそれなりにそれぞれが名を馳せている。  兄弟は、上に兄が三人と姉が一人の合わせて四人。  俺は末っ子だった。  だからといって、甘やかされて育ったわけではない。  むしろ兄姉は俺のすぐ上の兄である三男には甘かったが、俺に対しては厳しめだった。 「だっておまえ可愛げがないし」 「愛想もないし」 「可愛くないし」 「可愛げもない」 「……三回も繰り返さなくても俺に可愛げが欠けているのはわかってる」 「そういうところが可愛くないんだよ、おまえは」  そう言って、三男を猫かわいがりする次男の(みさき)は、俺に一番厳しい…というか扱いが雑だった。たぶん、三男の(のぞみ)以外はどうでもいいのだろう。 「それにしても、望がΩだっていうならわからんでもないが、まさかおまえがなぁ…」  それはたぶん家族全員の一致した認識であり率直な偽らざる本音だろう。だからこそ誰の顔にも困惑が色濃く浮かんでいた。  ――そう、「まさか」なのである。  俺の身体的特徴や全体的資質は、まさに典型的なαの特質を有していた。  ゆえに家族の中で誰一人として、自分も含め、俺がα以外であるなどと疑いもしなかった。  三つ年上の兄である望の方がむしろΩではないかとずっと案じられていたくらいだ。  望は中性的な美貌と、音楽方面に秀でた才を持っていて、物腰も柔らかくαの特性からは少し印象が外れる。  ――兄よりも俺の方が、一般認識されているα像にずっと近い。

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