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決意

 ロウ……すまない。  俺が意気地無しだった。  お前と番となったのも赤ん坊を生んだのも全て俺の意思だったのに、一体何を恥じていたのか。俺は最低だ。よりによって人間だけの世界にロウをひとりで行かせるなんて!  茫然と立ち尽くしていると、つかまり立ちを始めたばかりのトイが、よちよちと俺の足にまとわりついて来た。まるで早くロウを追いかけようと急かすように、じっと俺の顔を見つめている。 「そうか……そうだよな!クヨクヨしている場合じゃないよな。すぐにお前の父さんを追いかけよう!でも念のため胸にさらしを巻いた方がいいよな」  ここで暮らすようになってから、じわじわと胸から溢れ出る乳をロウが定期的に吸ってくれたので、もう胸に布を巻く必要はなかった。更にトイが生まれてからは二倍の速度で吸ってもらえるので、生産が間に合わない程だった。  せっかく胸を隠さないで生きていけるようになり、開放感を感じていたのだが、ロウの行き先……つまり人間界に踏み入れるのなら、そうもいかないのは重々承知だ。  あっ……そうだ。俺のさらしはロウが持って行ってしまった。何か代用品になるものはないかと見回すと、藁の上に敷いた白いシーツが目に留まった。  そうだ、これなら!  布をナイフでビリビリと切り裂いて長いひも状にして、胸にグルグルと巻いた。余った布の両端を結って簡易的な抱っこ紐を作り、それから攫われた時に着ていたシャツを着て、胸を隠した。 「トイっおいで!ここに入れるか」 「あぶっ!」  トイは、いい子に自らすぽっりと中に収まってくれた。まるでカンガルーの親子のように俺たちは密着している。これで一心同体だ。 「よしっ行こう!」  俺は自らの意志でこの森を出る。  そして来た道を戻っていく。  故郷へと──  両親に会いたい気持ちは確かにあるが、それよりもロウと少しでも離れているのが嫌だった。  俺達は番だ。いつも一緒にいないと駄目だ!  ロウが走り抜けた足跡を辿って、俺は深い森を迷いなく突き進んだ。 「ンギャー オギャー」  ところが途中で抱っこ紐の中のトイが、ジタバタと暴れ出す。 「そっか……腹減ったよな。よし待ってろ」  少し進んでは、森の木陰でトイに授乳をすることを繰り返した。トイはミルクを飲むのが仕事なのに、俺の方はこれでは追いつけないと、気が急いてしまう。  ロウ……今、どこだ?  ひとりで行くな……無茶するな。  俺を置いて行くな!  どうか何も起こりませんように。  抱っこ紐の中ですやすやと眠るトイの小さな体をギュッと抱きしめながら、必死に祈った。

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