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親父 と 父さん
ジリジリとけたたましく鳴る目覚まし時計で目を覚ました。あまりのうるささにボタンを思い切り叩いて止める。一度目が覚めてからまた眠りにつく心地良さといったら他に替えられるものがあるだろうか。再び襲い来る睡魔と戦う気もなく眠りについた。
「コラ! いつまで寝てるんだ」
毛布が勢いよく剥ぎ取られ、着崩れて出た腹回りと足首をヒヤリとした空気が撫でる。2月の終わりのこの時期に、布団を一気に剥ぎ取るとはとんだ鬼畜の所業だと思う。
「むり、寒い……」
縮こまって枕に顔を埋める。
「いいのか? 大輔召喚するぞ」
「それはヤダ!」
大輔というワードにしっかりと目が覚めた。ちゃらんぽらんなあの“親父”を召喚されたら、何をされるかわからない。
俺を起こしに来たこの人は智紀 さん。俺の“父さん”だ。七三にぴっちり分けられた黒い髪に細身の楕円の眼鏡。いかにもインテリといった風貌だ。実際にバリバリの商社マンなのだが。今日は平日なのでワイシャツを着ているがその上から水色のエプロンをしていて、そのアンバランスさがちょっとだけ可愛く思えた。なんでこんなしっかりした人が親父と一緒にいるのか、今でも本当に不思議でならない。
ベッドサイドに置いていた黒いビッグフレームの眼鏡をかける。ボヤけて見えなかった視界がクリアになった。
「朝メシできてる。降りてきて食えよ」
「はーい」
俺には2人の父親がいる。
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