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3-1side麗
麗がこの家に来てから、部屋から出たのは数える程しかない。どうしても外出が必要な用事がある時だけ、獅琉に守られるように外に出る。
獅琉は麗が誰かの目に触れるのを極端に嫌がった。
自分の唯一の弱味である麗の存在を知られれば知られる程、麗を狙う者が増えると考えているからだ。
だから、麗にとっては獅琉と暮らすこの部屋が世界の全て。
麗の世界にあるのは、獅琉とこの部屋と、数人の人間だけ。その状況を、異常だと教えてくれる人はいなかった。しかし、麗にとっては、間違いなくこの暮らしこそが幸せだった。
今日は仕事がないからゆっくりできると話していた獅琉。
麗は朝から獅琉にぴったりくっついて離れようとしない。ソファに座っている時も、トイレに立つ時もずっと獅琉の傍に張り付いていた。
「おい、麗。いい加減にしろ。動きにくいから離れろ。」
「や...ぼく、しー...すき...」
獅琉の胸に顔を埋めたままそう言う麗を見ると獅琉もそれ以上何も言えず、結局無言で抱き上げて膝の上に乗せてしまう。
大好きな獅琉の膝の上で、首に腕を絡ませて甘えれば獅琉は優しく髪を梳いてくれる。
獅琉の愛を、麗は毎日全身で感じていた。
そんな風に甘やかされて育った麗には苦手なものが2つあった。
1つ目は獅琉の居ない部屋。
麗が住む部屋は、麗の好きな物で溢れている。
獅琉に貰ったお気に入りのうさぎのぬいぐるみ。獅琉の香りが染み込んだ毛布。獅琉と2人で座るソファ。獅琉が眠る前に読んでくれる絵本。他にも、獅琉に貰ったプレゼントや、大切な思い出があちこちに落ちている。
けれど、そんな部屋も1人でいるとただの冷たい箱になる。
獅琉がいないとお腹が空く事も、眠くなることもない。
ただただ寂しくて涙が溢れる。
獅琉が仕事でいない時、麗は泣いてばかりいた。
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