5 / 114

訪れた緊急事態の説明の理解

   この人は大きな勘違いをしている。  実際、俺の考えなど伝わっていなくて、俺が突っ込む方で飯塚先輩が突っ込まれる方だったら――という意味で、掘られてもいいと言い始めた。  掘られて付き合えるなら、それでもいい……と。  どういうことだ。いやぁ俺、女とヤったことあるが男とはヤったことねぇぞ?  抱こうとも思わなかったのはやっぱりノーマルな俺だからで……。  まだまだ俯く飯塚先輩。ちゃんと言って断るぐらいのことをしないと間違いが起きる。  ここはなにも、フォローも入れずに言おう。 「んー、飯塚先輩」 「……」 「俺が言ったのは、俺と飯塚先輩ではない。他の奴等と飯塚先輩だ。俺は、他の奴に飯塚先輩が掘られている姿を見たい、という意味なわけで――あぶっ!?」  目の前から丸い影が見えたのを、反射的に止めた。  止めたものは、飯塚先輩の拳。 「……」 「ちょ……仮にも、だろ……」  零れる苦笑いの俺に、飯塚先輩は無表情。  殴ろうとしてきたマジキチはやはり不良様だからだろうか。それとも俺が正直過ぎたのか……いやいや、というか手出しがすっげぇはやいな。  微動だにしない俺と飯塚先輩。というか飯塚先輩、何センチあるんだ……180センチ以上は絶対にあるぞ。  若干、見上げる形となる姿にあらぬ妄想は止まらない。  長身の受けだって、最高じゃないか。 「飯塚先輩、まずは落ち着きましょうか」  殴りかかる拳を止めた手の力を少しだけ和らげながら言ってみる。 「……」  変わらず無言で、この人見た目と合ってて短気な男だな、と頭の中に残しておく。 「すみません、気に入りませんよね」 「……」  格好は変わらない。力が少しおさまっただけで上がってる拳は動こうともしないから、俺も掴み止める手はそのままだ。でも話を進めなければいけない。 「まぁほら、俺ってば腐男子って者でして……男同士のセックスとかめちゃくちゃ見たい方なんですよ。セックスだけじゃなくてイチャイチャする姿も見たいというか……。でも恋愛は女対象なので自分は含まれないというか、」 「……」  くそ、一般にはどう言えば伝わるっけ。  周りの友達は呆れながらも理解してくれてるせいか説明の仕方がわからなくなってきた。  こんなんじゃ伝わるものも、 「……じゃあ、俺が誰かとヤれば、付き合えると?」 「……あぁ、そっちに行った感じか」  伝わらない、ってな。  勘違いに勘違いを繰り返す飯塚先輩はどんだけ俺と付き合いたいんだ。俺との接点なんて、せいぜい生徒会役委員のうっすい繋がりだけだろ。  そこまでして俺の条件を飲もうとしてるこの人がすげぇよ。 「……で、誰とヤればいいんだ」  変わらず拳はさげてくれないが意外にもヤる気みたいな先輩に感心する。  俺だったら例え恋愛対象が男も追加されたとして、好きな奴が男で告白して、こんなこと言われたら諦めるけど。  何度も言うが俺と付き合いたいからって条件を飲もうとするのは、どうなんだ。……でも、チャンスではある。  飯塚 友樹は顔が良い。  目付きの悪さに眉毛で近寄り難いが、あとはそんなのどうでもいいと思えるぐらい良い。  性格は難ありといった感じだが、もしかしたら言う事を聞いてくれるフラグがビンビンに立ってるから性格なんて除ける、かもしれない。  はっちゃけたリクエストだって出来る、かもしれない。 「飯塚先輩」  掴み止めたものを、 「……っ」  拳を作る飯塚先輩の手をほどき、指まで絡めて、 「俺の事、どこまで好きなんですか?」  握りながら聞いてみた。指輪がゴツくて絡みにくい。  こんなので殴られたらたまったもんじゃないっつの。マジで止めれてよかった。  そう思いながらも聞いた質問に飯塚先輩は照れたのか目を逸らしながら『けっこー……』と答えた。  結構、好き。  わかっていた返答だけど。でも、わくわくしてきた。  同時に興奮してきて俺のなにかが湧きあがる。  父親母親のために買ってあったビデオカメラが俺の手元に置いといてよかった。  まあ、俺を好きになったのは運が悪かったってことで! 「じゃあ、ハメ撮りしちゃいましょうか」  その言葉に、飯塚先輩は目を見開きながら驚いた表情で俺の顔を見ていた。――そんなわけで、 「……」  ジーッと枕で顔を隠す飯塚先輩をビデオカメラで撮る。  どうやらケツの状態は悲惨なものみたいで……だから拒否ればよかったものの。  ハメ撮り許可を得たのは三時間前ほど。  頷いた飯塚先輩には内心、驚いたものの不良総受けが見たい欲は止まらず、またあとで連絡しますと言って寮に戻ろうとした。  手を、指を絡めていたものを離して、落とした漫画を拾い、きっと来るであろうバカみたいな考えと“後悔”は俺の中でぶっ倒しとく。  飯塚先輩はいったい誰にどうヤられて鳴くのか、どんな相手なら気持ち良く腰を振ってくれるのか……この人の処女を貰った今、ちょっとした手荒な真似でも耐えてくれるだろうよ。  というか、どうして今犯したか?  いや、別に俺が好んでヤったわけではない。  部屋に戻ろうとした俺の腕をまた掴んできた飯塚先輩が言ったんだ。  木下の言うことはやるが、その前に抱くか抱かれるかしてくれ――って。だからまぁ、抱いた方で今に至るわけだけど。  突っ込むだけなら、女と、変わらない。 〝はーい、ということで、よろしくお願いしまーす〟  録画していたのを一旦やめて、つい先ほどまで撮っていたデータを再生する。俺と飯塚先輩がセックスを始める前の映像。  声に含まれる、どこか期待しているようなテンションに俺自身呆れが出てくるのは、正気に戻ってるからだろう。 〝まさか撮られる事を二つ返事で貰えると思いませんでしたよ〟 〝んじゃ、最初に名前聞いちゃおうかな〟  素人ナンパしてハメちゃいました、みたいなAVノリ。  つーかこんな事やる俺を、よく一緒に行動する“あの二人”が見たらどう思うかね。  

ともだちにシェアしよう!