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えんでぃんぐ
松村が出て行き、俺と友樹の二人だけになった部屋。
このまま手は繋いでいるが、俺が握ってるだけで友樹からは握り返してもらえてない。
てかさ――?
「友樹?おい、友樹ってば」
「……」
さっきから俯いたままで喋らないんだけど?
「どうしたんですか、喋らないなんて。まぁだいたいいつも喋っていませんが」
ゆっくり、友樹を押し歩かせながらソファーに座らせる。素直に従って座ってくれたのはいいが顔を見せてくれない。
様子がおかしく思えてきたのは……松村に付き合ってる言葉を証明した時から、か?
ハメ撮り相手だと勘違いしてビクついていたくせに、急にその震えも止まってなにも言わなくなったし。なんか俺したっけ?
「なんで俺といて喋らなくなるんですかー?」
「……」
「友樹?」
なかなか喋らない。これもうほっといた方がいいかな。
でもなぁ――。
「んー……」
とりあえずソファーに座らせた友樹の隣に俺も腰をおろして、喋ってくれるまで待つことにした。
左耳に開いている三つのピアスを一つずつ触りながら。触り心地の良い黒髪を撫でながら。浮き出てる鎖骨を指で滑らせながら。新しく出来ていた傷を突きながら。
勃ちもしていない友樹の下半身を、
「やめッ、やめろって……!」
「うおっ、やっと喋った」
ジーンズ越しで扱けるわけがないのに慌てながら俺から離れる友樹。
やっと喋ったし、やっと顔を上げて俺と目が合った。
目が合って、わかったこと。
「ん?友樹、顔赤いけどどうしました?」
「……っ」
頬に手を添えて離れた距離に顔を近付けさせる。
似合わないビクビクした動きは何度見てきたことか……いいぞ、こういうの。
こう、生徒会に入っていながらも喧嘩しちゃって暴れて。
それを解決させるために生徒会と教師のごく一部にしか広がらない極秘騒動におさめてる不良くんが、俺の行動で反応する姿を見るのってすげぇ良い。
なにが理由でここまで俺についてくるのかは、本当に知らないんだけど。
「よくわからない人ですねぇ、トモくーん」
調子に乗って、ハメ撮りの時にしかあまり呼ばない名前を呼んでみると、友樹はギュッと目をつぶっては、
「お前がっ……!」
叫んだ。
さすがに驚いたわ。今日は驚く日か?
俺の心臓が持たねぇぞ。
「俺?なんですか?」
「歩が……」
また顔を下に向けながらも喋る友樹。
「歩が松村に、本当に付き合ってる、とか……言うからっ」
「おお、それが?」
確かに言ったなぁ、だって付き合ってるだろ?
なんて思いながら返すと、友樹はさらに赤面しながら、
「……お、れ、本気にする……」
そう、口を動かした。
俺が握っていた手も同時に、ぎゅうっと握り締められてちょうどいい力加減だと思った。
これが友樹であり、さりげなく絡めてくる指もイイと。
「歩の、好きなことで付き合えるなら、って……なにか繋がりがあって、それで付き合えるならって思ってたけど、歩は違くて、こんなオレと、しかたなく男と付き合うしかないから、ハメ撮りとか、そういう条件を出してきて、」
「……」
「すぐ手が出る俺に、断れなくて、しょうがなく……断りの理由としてあげたんだろうけど――「ちょっと待て」
ぐだぐだぐだぐだと纏まりのない言葉を並べて吐くだけ。
これはきっと考えずに頭からおりてきただけの言葉を言ってるんだろう。友樹自身もなにを言ってるのかよくわかってないはずだ。
なんだ?
要約すれば、告白をしたが殴りかかってしまう友樹に俺が断れなくて――は?
まとめることすら出来ねぇ……。そもそも俺は一回断ってるつもりだ。女が対象だと。
そんで腐った俺の我が儘で、不良部類のあなたは掘られる方がいい、と言った。この際、年下希望は忘れてやる。で、さらに我が儘をふっかけたら、勘違い展開になったんだろうが。
だから説明しようと一から十へと、俺の思いを伝えたわけだ。
あなたが他の人から掘られてほしい、と。
そこまで説明して、この人が殴り掛かってきたんだろ?
どうして友樹が俺を追い詰めたような気でいるんだ……。最終的にはまた友樹が勘違いして、俺の希望通りのハメ撮りコースになったんだ。
正直、こんな条件を飲み込むとは思わなかったけど。
「ともき」
「おれ、本当に歩が好きだから、勘違い、する」
最初から勘違いしまくってるけどな。
「ともきってば、」
「ハメ撮りとか、意味がわからねぇけど、それでも歩のそばにいれるならって考えると、ヤれるんだよ……でも、さっきの紹介とか、なんかいろいろ、」
「あー、トモくん」
「……っ」
いつものビデオカメラがテーブルの下に置いてある。腐神様が置いてくれたんだろうか。
だいたいパソコン周辺に置いてあるのにな?
「トモくん」
「あ、ゆむ……」
カメラにこんなにも怯えず、映る友樹は初めてかもしれない。
録画はしてないけど。
「あんま難しく考えないでください」
「ん……」
目元に口付けすれば小さく体を震わせる友樹。
俺に怯えてるのか、それともなんなのか。いや、そんな気持ちはもういいんだけど。
「情ってさ、いつの間にか出てくるものだと俺は思ってるので」
「……」
これも酷い言葉のうちに入るなら教えてくれよー。この調子でしか俺はノリに乗れないんだから。勉強と感情は違い過ぎるから、頭の良さも関係ないんだって。
「だから友樹が言うその“勘違い”も、してていいし。本気にしてもいいし――自由にどうぞ?期待にそえられるかは、」
またもや友樹を不安にさせるような言葉かもしれないな、と思いながら――そのとき次第です――と言い、持っていたカメラをテーブルに置きながらレンズを向ける。
「でも、歩、おれ……」
「トモくん」
繋ぎ握っていた手は指まで絡ませる。
「俺の事、どこまで好きなんですか?」
ゴツいあの指輪はどこにいったんだろうな。なくなって絡みやすくなってるから俺的には好都合なんだけど。
そう思いながら聞いた質問に友樹は照れと浮かべる涙で目を逸らしながら『すっげぇ、好き……』と、答えてくれた。
やっぱり、わかっていた返答だ。そしてまたもやワクワクしてきた。興奮も、違う感情も動き出してきて、俺のなにかが湧きあがる。
「ほら、友樹」
そのまま友樹の膝の上に乗り、耳元で囁くように口を付ける。
「カメラ、ちゃんと意識してヤってくださいよ?」
「ん……ッ、はぁ……」
録画は、してないけどな。これでもハメ撮りみたいなものだろう。
「カメラの言葉で勃起とは、なかなかの変態ですねえ?友樹くーん」
――気付いた時に、また。
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