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突如終わる世界
あの日、告白された時に出した条件か。
『ハメ撮りさせてくれたら付き合う』
この言葉が一番キてるんだろうな。
次にテッちゃんの時か。
終われば俺達は付き合える、とか言ったっけ。
テッちゃんから『飯塚と付き合うんだな?』と改めて言われた時も、そういった“約束”なので、とか返したっけ。
最近では磯部の時。
友樹の目の前でどうどうと“カタチ”でも付き合ってるわけだから――なんて口にしたもんな。
「……」
「……」
なんとなく、涙が溜まっているようにも、見える。
痛いほどに掴まれてる腕も、震えてるような気がする。
「……」
重い沈黙だ。
場によって異なるが、沈黙は苦手ではない。けど、こういうのは苦手だ――嫌いだ。
どう声をかけていいのかわからないし、ふざけて過ごしたいとも思ってる俺だから。
両親がいません。借金まみれです。トラウマあります。
――あーあ、そうですか。
この程度にしか思わないから。
でもそう思ってると話した相手は嫌な顔をする。勝手に話してきたのはそっちのくせにな?
人の死ネタで笑うなんて非常識にもほどがある失礼なものだ。けど俺はそういうタイプだから、この沈黙はさすがにキツ過ぎる。
「松村」
ここにいる松村が次の相手だと勘違いしている友樹を視界に入れつつ、松村を呼んだ。
俺達二人の会話なんて耳に入っていなかった松村は気軽に『んー?』なんて返事をするが、友樹はビクッと体を反応させる。
勘繰りとはこういう事をいうんだな。
俺の腕を力いっぱい掴んでる手を取り、松村の方に体を向かす。そんでちゃんと話をしたら、どっちも安心するんだ。
松村も、友樹も。
「友樹とは、本当に付き合ってるから」
「……っ」
その瞬間、震えていた友樹の手が止まった気がした。
「ともき……」
「そう、友樹。で、こっちが知っての通り、親友の松村です。――ちょっと今日は松村に紹介したくて呼ばせていただきました!」
すみませんね、と友樹に向かって付け足せば驚いたような顔で俺をジッと見てくる。
ここまで言えば、松村はまだ怪しいが、友樹はわかってくれるだろうよ!
条件は条件だったわけで、ちっとも考えずに口に出したデリカシーの無さに気付けなかったよ。というか友樹がここまで自覚していた事に驚いたっつーか……いつもはカメラを見て判断していると思っていたからさ。
今日みたいな呼び出し方で部屋に招いて過ごす事は多々あった。
逆に俺が友樹の部屋に行くということはないんだが……それでも友樹は呼ばれるたびにビクビクしていたのか、と思うと気が重たくなるし、ストレスも溜まるよな。
そりゃ、校外で誰かさんと喧嘩しちゃうよな。
「まあ、まだ付き合って一ヶ月経ったぐらいなんだけど」
磯部の前と同じく友樹と手を繋ぐ姿を松村に見せびらかしながら口にする。
まったく友樹は動かねぇけど大丈夫か?
「キッカケはどうであれ、付き合ってるのは事実だから、信じといてよ」
「……」
「……木下は日頃の行いが悪過ぎて信用なくすんだよ」
「んー?」
困った顔で笑うイケメンはやっぱりイケメンだ。
どうか俺の目の前で五十嵐と公開セックスとして見せてほしい。……おっと、さすがにこの場で妄想するべきではないな。
また松村を怒らす事になる。
「飯塚先輩も飯塚先輩ですよ?言ってくれればいいのに。こいつ女が好きなはずだったんですから」
「……」
「感化された感化されたー」
友樹に微笑む松村は俺のプランに合わせてくれたような会話。――のはずだが、どこか安心したような表情に見えるのはなぜだ?
疑問に思いつつもいつもの俺らしさを出すためにおちょくる口調で場をとりあえず和ませる。が……握られてる手に力がないけど、どうした?
むしろ俺が繋いでるみたいな形だ。
「お前ももうちょっとマシになれよな」
「でも王道は見てぇよ」
「あほ……」
なんてやり取りしていたらどこからか着信音が聞こえてきた。でも俺の着信音じゃない……と、なればあとは二人だ。
まぁすぐにわかったんだけど。
「悪い、俺だ。また来るな」
その着信音は松村のものだったらしく急ぎ足で俺の部屋から出て行った。
まるでハリケーン野郎だな。パソコンだってなんのためにやりに来たのかさっぱりわからない。
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