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突如終わる世界

   殴り掛かってきそうになった松村に避けつつ、逃げる。部屋の中で、だけど。 「いや待って松村!これ俺からの!俺からの、友樹への愛だから!愛情表現だから!」 「狂ってんなおい」  わかる! 俺も思った!  突発的な言葉っていうのは口に出すもんじゃないな。  もう一度、松村を落ち着かせるべく俺は肩に手を置いてソファーに座らせる。  あぁ、これは本人召喚が必要だ……。俺の中でプランをしっかり練って……で、成功するかどうかは知らないが、頑張ろう。  考え抜いたプランに俺はクタクタになりながらスマホを手にする。あ行にいる飯塚 友樹の名前の下には五十嵐 順平の名前。だが、今必要なのはこいつじゃない。  むしろこいつを呼んだところで俺が負ける。痛い目みる。 「まっ、松村。ほんと、落ち着いて」 「……」 「キミ、真面目なのはいいんだけど、考え過ぎもよくねぇからさ……」 「……っ」  あ、今、眉が動きやがった。  琴線に触れんの超怖いんですけど。 「やっぱここに飯塚先輩を呼ぶから。で、納得しちゃってくださいよ奥さん……」  表情の硬い笑顔を浮かべつつ必死な俺。  このまま指でスマホの画面をタップしたら、友樹に電話が繋がる。 「松村、飯塚先輩は確かに呼ぶ。けど、ちょっとだけ話を合わせてほしいんだ」  必死な俺は、必死に目の前にいる奴を、押す。 「あの動画を見た、とか、そういうのは言わずに――親友への紹介の流れで……会ってほしい、というか」  いつもの俺らしくない吃り方で自分自身もびっくりだ。  ここまで焦ると俺ってばこんなダサくなるとか、勘弁してほしい。 「……」 「な、ほら。不良くん怒らすと、大変じゃん?」  最後に『いいか?』なんて付け足して、松村の返事を待つ。  今まで見たことないぐらいの厳つい目付きに、中沢がいなくてよかったと関係ないことまで考えてしまう。  いけないな……松村も五十嵐と同じでどんな表情でも見破ってしまう可能性が高いのに。なんつーか、もう、俺が限界だ。 「木下……マジさ、」  長い沈黙なんて気にせず、とにかく松村の返事が頷いてくれる事だけを祈っていた。  でも返ってきた言葉は俺の祈りと、予想とでは大きく違っていた。 「本当に木下と飯塚先輩は、付き合ってんの?」  今度はジト目といってもいいだろう目付きに、俺の選択肢が“はい”か“イエス”しか残ってないような気がする。 「おう、本当に付き合ってるよ」 「……妄想じゃなくて?」  さすがにそれはないぞ……松村君、それはない。  ノーマルな俺だと知っておきながら妄想内に男を引き入れて俺とわちゃわちゃするなんて、それはないぞ。 「残念ながら妄想じゃなく、現実だ」 「……」 「……そもそも、飯塚先輩から告ってきたんだからな?」 「……」  ここでわかったのは、松村から刺さる冷たい視線がなくなったっていうこと。なにかを探るような言い方だが、冷たい視線がなくなっただけ俺は嬉しがるしかない。 「落ち着いたか?松村さん」 「……たまに、木下のノリについていけなくなる時がある」  あぁ、そうですか。  確かに周りから言われるけどさ、それこの場面で言う必要あるか?  ソファーの背もたれに体を預けて脱力状態の松村に俺は持っていたスマホをテーブルの上に置いといた。なんとなく、蒸し暑さを感じているのは、こういった緊張した場だからか。  それとも梅雨入り時期だからか……。  急に来たジメッとした空気。 「ちゃんと、飯塚先輩への気持ちはあんの?」  目を合わせてきた松村。  ここできっと、松村が望むような返事をしなきゃまた怒るだろうよ。もしくは五十嵐を呼んでボコられるか……同性同士はシビアっていうじゃないか。  それが学生だろうと、ビッチ相手にしろヤリチン相手にしろ、真剣に考えない奴は、真剣に考えてる奴等に――。 「……なにげに可愛い人だな、とは思うけど」  ボッコボコにされちゃうとかさ。  元ノンケであった松村だ。  この世界に入ったあとでなにかあったにしろ、なかったにしろ、ちゃんと考えて五十嵐と付き合ったんだろ。  だから、まあ、そんなわけでさ。 「……っ」 「はい、じゃあ、ね――……」 「……」  結局、友樹を呼んださ……。  松村の目の前で友樹に電話をし、軽い感じで『話したい事があるんで来れますか?』と。そしたら勘違いしちゃったのか重い返事とともに電話を切られた。  ハメ撮りの話じゃないっつの。  友樹が来るその間に最近ハマり出したマジックを松村に見せながら過ぎる時間をおとなしく待っていたのだ。……僅か数分で来るから驚いちゃった、なんて内緒の話。 「飯塚先輩、こんにちは」  先に挨拶をしたのは松村だ。  さっきまで怖い顔を晒していたくせに友樹を目の前にすれば爽やかな笑顔でイケメン面を浮かばせている。  こんな奴でも五十嵐のテクニックであんあん言ってんだぜ、すげぇよ。想像出来ないわ。  そんな無理ある想像を、カメラでおさめただけなのに、怒られちゃうからさ。 「んー、友樹、知っての通り――っ」  知っての通り松村だ、俺の親友な。  そう言おうとした。言おうとしたんだが。 「とっ、友樹?どうしました?」  腕を掴まれて勢いよく引っ張られては転びそうになった体を友樹に支えられながら問う。  ビビった。絶叫系は嫌いだからこういうのはやめてほしい。 「ムリだ……」 「は?」  大きな背には見合わないほどの小さな声。囁くように耳打ちをしてきたから俺には聞こえたものの、松村にはなにも聞こえてないんだろうな。  チラッと後ろを見れば首を傾げて俺達を見ることしか出来てない松村。 「なにがですか?」  わからないが俺も友樹に合わせて小声で返す。  つーか、掴まれてる腕、結構痛いんだけど? 「松村となんてデキねぇよっ、あいつ会長の相手だろうがッ……」 「……え」 ――わぁ……。 「さすがに、相手が悪過ぎるだろ……!」 ――これはこれで、友樹の、自覚あっての、お付き合いになってるなぁ……。  

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