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流鶯の舞
「来てくれたんですね!」
仕事を終えた天雨 さんは、昼間の屈強な真紅の鎧姿から一転して、上下に着丈の長いゆったりした服に下履きという寛いだ装いだった。
広めの袖口や詰め襟には細かな金糸の刺繍が誂えてあり、優雅な仕草にピッタリだ。
漆黒の長い髪は風呂上がりなのかうっすら濡れていた。
「流鶯 の礼とは、もしかして舞なのかと思ってな。伴奏位にはなるだろうと持ってきた。」
手に握られていたのは小さな龍笛だった。
流石、皇帝直属のα で構成された近衛部隊に所属している人はこうした嗜みもあるのだろう。
「はい、その通りです。では足に付けた鈴は取りますね。天雨さんの音の邪魔になる。」
「いや、取らなくていい。初めは流鶯の舞だけを見たい。」
端正な顔立ちの中で僕が魅入られたアンバーの瞳は月明かりに黄金の輝きを放ち、心臓が止まりそうな程美しい。
精悍な身体と相まって、貴族特有の優美な品格を感じずにはいられない。
「そうですか。早速…踊りますね。」
顔が赤くなるのを何とか誤魔化し、昼間のお礼に自分が得意な神楽を舞う。
城の中庭にある東屋から小高い丘があり、僕に相応しい舞台のような気がした。
指先、手先にまで神経を行き届かせ、鈴の音すら自在に操るように一つずつ型を作っていく。
いつもは無心で踊るのに、今日は一人の事で心が一杯になった。
途中から天雨さんの龍笛が綺麗で切ない旋律を奏で、僕の踊りと重なり合った。
僕はこの人に許されない恋をしている。
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